130話―雷鳴の試練
「へえ、アタイを逆にぶっ倒そうって? そいつは結構、やる気があっていいじゃねえの。なら、こっちも全力で答えねえといけねえなぁ!」
「そうでなきゃ、この修行をする意味がねぇ。来やがれ、鎚の魔神さんよ!」
「なら……いくぜ!」
バチバチと弾ける電撃を全身に纏い、カレンは素早くシャスティに這い寄っていく。下半身が蛇となったのにも関わらず、そのスピードはかなりのものだ。
「食らいな! スネイクテイル!」
「当たるか……よっと!」
地を這うように、横薙ぎにしっぽが振るわれる。縄跳びするようにジャンプして攻撃を避け、シャスティは真っ直ぐカレンに突撃していく。
それを見たカレンは、先ほど投げ捨てた金棒をしっぽで回収して左手に持ち、二刀流の構えを取る。金棒でシャスティの攻撃を弾き、一旦後ろに下がった。
「さぁて、鳴らすとするかねぇ。身も心も震わせる、戦いのビートをな!」
「なんだ、あいつ……いきなり太鼓を叩き始めたぞ」
シャスティが訝しむなか、カレンはリズミカルに太鼓を叩く。すると、オレンジ色のオーラがカレンの身体を包み込む。嫌な予感を覚えたシャスティは、妨害しようとするが……。
「とりあえず、面倒なことになる前に止め……」
「残念、もうおせぇよ。さあ、ド派手に降らすぜ、雷の雨をな! ライトニングスコール!」
カレンが叫ぶと、天井を覆っている暗雲が明滅を始める。その直後、凄まじい稲光と共に、雷がシャスティ目掛けていく筋も放たれた。
「マジかよ……クソッ!」
「ハッハッハッ! さあ、雷に打たれたくなきゃ逃げるんだな! もっとも、そう簡単には逃がさねぇがよ。スネイクテイル!」
「だぁークソッ、面倒くせぇな!」
降り注ぐ雷と、勢いよく振り回されるしっぽのコンビネーションを前に、シャスティは防戦一方となる。苛烈な攻撃を避け続けるのに精一杯であり、反撃の隙をなかなか掴めない。
(やべえな、もうすぐ時間切れになっちまう。このまま避け続けてりゃ、条件はクリア出来るが……お情けで一撃食らわせただけじゃ、納得出来ねえ。何とか攻撃しねえと……そうだ!)
広間じゅうを走り回りつつ、突破口を開こうと思考を巡らせていたシャスティは、とある策を思い付く。あまりにもぶっ飛んだ策だが、余裕のない本人には素晴らしいものに思えたようだ。
「よぅし、こっちも反撃してやるぜ! 覚悟しろやカレン!」
「おっ、やるか? 来な、真正面から相手してやらぁ!」
「へっ、んじゃ行くぜ。うおりゃああああ!! ……なんてな」
バカ正直に真正面から突撃する……と見せ掛けて、シャスティはハンマーをおもいっきりブン投げた。まさかの行動に、カレンは一瞬動きが止まってしまう。
「はあ!? 自分の得物ブン投げるたぁ、何がやりて……ん!? てめ、いつの間に後ろに!」
「へっへっへっ、このままてめーの身体をよじ登ってやんよ!」
カレンがハンマーに気を取られた隙に、シャスティは相手の背後に回り込む。そのままカレンの身体をよじ登り、後ろから抱き着く形でへばりついた。
上手いこと太鼓と背中を繋ぐ輪の中に入り込んで座るように脚をかけたため、カレンも下手に暴れられないようだ。
「ぬあああ、離れろこら! アタイに女と抱き合う趣味はねえんだよ!」
「んなこと言ってる場合じゃねえだろ? この邪魔くせぇ雷雲をよ、こうしてやるぜ!」
「おい、まさか……バカ、やめろ! 無闇にそいつを叩くんじゃねえ!」
両足でカレンの胴体をロックし、シャスティは両手を離す。そして、カレンの背中に接続されている太鼓を、めちゃくちゃに叩き始めた。
先ほどは、カレンが太鼓を叩いたことで雷雲が活性化し、攻撃が始まったのだ。ならば、太鼓を利用して沈静化することも可能なはず……と、考えたらしい。
のだが。
「ほらほらほらほら、どんどこいくぜぇ! これであの雷雲も、大人しくなっ……て? ねえな? うん」
「あー、こりゃやべぇぞ。もうこうなったら、アタイでも制御出来ねえ……」
めちゃくちゃに太鼓を叩いたことで、雷雲のコントロールが解除されてしまったようだ。これまでよりもさらに激しく、無差別に雷が放たれる。
砂時計にも雷が直撃し、木っ端微塵に粉砕されてしまう。これではもう、残り時間を測ることは不可能だ。
「あぶなっ……どわっ! もうめちゃくちゃだな!」
「いやいや、おめーのせいだろうが! あークソ、こうなったら雷雲がエネルギー使いきるまで逃げ回るしかねぇ!」
「くっそー、いい案だと思ったんだけどなぁ」
「しゃーねぇ、修行の内容を変更するぞ。雷雲が消えるまで、アタイと一緒に逃げ回れ! 雷を全部回避出来たら、合格にしてやっからよ!」
雷雲が暴走してしまった以上、カレンが提示したルールは破綻してしまった。よって、新たなルールが提示される。身体を振ってシャスティを振り落とし、カレンは笑う。
「もちろん、アタイは逃げ回りつつ全力で妨害するぜ。さあ、逃げられるモンなら逃げてみろ!」
「わーったよ、やってやらぁ!」
自業自得ということで観念し、シャスティは大声で叫ぶ。その後一時間ほど、雷雲が消えるまで二人は広間じゅうを走り回ることとなった。
最後まで無事逃げ切り、合格自体は出来たが……お冠なカレンに、拳骨を食らったのは言うまでもない。
◇――――――――――――――――――◇
「ちょおおおっと! このスライダー、どこまで続いてますのおおおお!?」
一方その頃、アンジェリカは扉に入ってから十分以上、スライダーを滑り続けていた。何しろ、扉の向こうには床が一切なかったのだ。
意気揚々と一歩を踏み出した結果、まっ逆さまにスライダーに落っこちて、あちこち曲がりくねりながらずっと降下し続ける羽目になった。
「いい加減、終わりに……って、途切れているじゃありませんの! このままだと放り出されて……あああああ!!」
いつまでもスライダーを滑り続けるのに嫌気が差してきたちょうどその時、上向きにカーブしたところでスライダーが途切れていた。ブレーキも間に合わず、アンジェリカは放り出される。
緩やかな放物線を描き飛んでいくと、眼前に炎の輪が現れる。サーカスの曲芸のように、アンジェリカは輪の中心を潜り抜け飛んでいく。
「ああああもう、何故わたくしがこのような……へぶっ!」
そろそろブチ切れそうになってきたところ、透明な板のようなものにぶつかりアンジェリカは真っ直ぐ落下する。その時に、ワープホールを通ったがアンジェリカは気付いていなかった。
「あいたたた……。本当になんなんですの? こんなアトラクションをするために来たわけでは……あら? ここは……庭園? いつの間にこんな場所に」
顔をさすりつつ立ち上がると、アンジェリカは周囲の様子が違うことに気付いた。真っ赤なバラが咲き誇る庭園の奥に、椅子とテーブルがあるのが見える。
二組ある椅子のうち、片方には誰かが座っているようだ。それを見たアンジェリカは、すぐに気付いた。あの人物こそ、自分をあんな目に合わせた張本人だと。
「ははーん、なるほど。魔神流の歓迎というわけですわね? 上等ですわ、このお礼は千倍にしてして返してやりましてよ! 早速カチコミますわああぁぁぁ!!」
怒り心頭なアンジェリカは、庭園の奥へとダッシュする。先に進むにつれ、相手の姿が少しずつ見えてきた。アンジェリカに対して背を向けており、顔は見えないが……。
「あの人ですわね? もう絶対許しませんわよ!」
椅子に座っているのは、ドレスのような飾りが付いた真っ赤な鎧を着た少女であった。服装も目立つが、さらに目立つのが髪型である。
それはもう見事な、金色の縦ロールだった。いかにもお嬢様然とした雰囲気を纏う相手を見て、アンジェリカはとある疑念が頭をよぎった。
「あの方……いえ、まさか。そんなことがありえるはずはありませんわ。……っと、着きましたわね。そこの貴女、こちらを向きなさい。リオさんの仲間、魔神ですわね?」
「ふふふ、如何にも。そう、わたくしが貴女をここに誘いましたのよ」
椅子に座っていた少女は立ち上がり、かっこつけながら振り返る。相手の口調に、アンジェリカの中にあった疑惑は確信へと変わりつつあった。
「おーっほっほっほっ! あたくしの名はエリザベート・バンコ=アイギストス! ベルドールの七魔神が一人、炎の力を司る剣の魔神ですわ! ……って、あら?」
「……ああ、やっぱり。なんとなーく、嫌な予感がしてはいましたわ」
少女――エリザベートは口元に手を添え、如何にも『お嬢様』といった風に高笑いする。が、目の前に立つアンジェリカを見て、彼女も何かを悟ったらしい。
「ああ、やはり……。まずいですわ。この方……」
「貴女、まさか……そんな、このあたくしと……」
互いの顔をジロジロと見つめ、二人は交互に呟く。そして……。
「キャラが被っていますわぁぁぁぁ!!」
二人の絶叫が、同時に発せられた。
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