58話―共同作戦! セルトチュラを討て!
「さあ、始めましょうか。出来るだけ無様に泣き叫びながら死んでいってくださいね、その方がガズィーゴ様も喜ぶので」
「そんなこと、絶対しませんよ! スケルトンナイツ、攻撃開始です!」
ニコニコ笑いながら慇懃無礼な言葉を吐き散らし、セルトチュラはゆっくりと歩き出す。敵を迎撃するべく、アゼルは四体のスケルトンナイトを先行させる。
相手の能力を見極めるための様子見を兼ねているため、武装は必要最小限のモノしか持っていない。骨の騎士たちが前へ進むたびに、魔法陣が広がっていく。
「あらあら、随分とまあ貧相なこと。操り主に似て、スケルトンも細くて小さくて弱々しいですね。これでは……おやつにもなりませんよ」
「アゼルさん、来ますよ。備えてください」
「は、はい!」
憎たらしい笑みを浮かべ、セルトチュラはゆっくりと両手を頭上に掲げる。すると、彼女の胸部にある竜の頭が大きな口を少しずつ開けていく。
「さあ、食事の時間ですよガズィーゴ様。もっとも、文字通り小骨ですが」
「メシ、メシ……飯、クウ」
「何を……うわっ!?」
「アゼルさん、わたくしに掴まってくださいませ」
ガズィーゴが口を開けた次の瞬間、凄まじい勢いでスケルトンナイトたちを吸引し始めた。ファティマは魔法陣に両手を突き刺し、吸い込まれないよう身体を固定する。
その彼女にしがみつき、アゼルも吸い込まれずに済んだ。が、スケルトンたちは全員ガズィーゴに呑み込まれ、一口で噛み砕かれてしまった。
「うう……凄い吸引力……。気を抜くと、ぼくたちまで吸い込まれちゃいます……!」
「なら、吸わせて差し上げましょう。とびきりの一撃を。バトルメイドプロトコル起動、戦闘モードへ移行開始。ウォッシングプログラム、サンフレア」
身体を固定したまま、ファティマは戦闘を開始する。両目が光り輝き、強烈な熱線がセルトチュラ目掛けて放たれた。
「くっ!」
「避けましたか。まあ、そうでしょうね。何せ、竜の鱗をも数秒で溶かし貫く威力がありますから」
「ですが、所詮は熱線。真っ直ぐ飛ぶことしか出来ない攻撃など、恐るるにたりませんね」
直撃すれば無事では済まないと悟り、セルトチュラはヒラリと熱線を回避する。相手をおちょくるように生意気な口を利くも、ファティマは聞き流していた。
「え? なんでしょう。カトンボの羽音は小さくて聞こえませんね。もっと大きい音を出したら如何です? まあ、聞きませんが」
「このアマ……!」
「今度はこっちの番ですよ、反撃開始です! サモン・ボーンクリスタル!」
カトンボ呼ばわりされてキレ始めるセルトチュラを前に、アゼルは反撃のための布石を敷く。骨で出来たいびつな多面体の結晶を創り出し、空中に浮かばせる。
結晶は鏡のように周囲の景色を映し出しており、キラキラと輝いていた。
「反撃? そんな結晶で何が出来るというのです? 可哀想の、貧相なのは身体だけではなく頭脳もでしたか」
「そう思うのはまだ早いですよ。ファティマさん、もう一度さっきの熱線をお願いします!」
「かしこまりました。ウォッシングプログラム、サンフレア!」
「愚かな。またかわして……!?」
アゼルの要請で再度熱線が放たれ、セルトチュラに向かって突き進む。すると、骨の結晶が熱線の方に向かって急加速する。そして、セルトチュラがいる方へ熱線を反射した。
「ぐあっ!」
「真っ直ぐにしか飛ばないなら、途中で軌道を変えればいいだけの話です!」
「なるほど、考えましたね。流石です、アゼルさん」
「えへへ……」
見事セルトチュラに熱線を直撃させたアゼルを、ファティマが誉める。照れ笑いを浮かべる少年を見て、ファティマは己の主を思い出す。
(こうして見ていると、我が君そっくりですね。微笑ましい限りです)
「ぐうっ……よくもやりましたね。ならば、反射など出来ないように……粉々に砕いて差し上げましょう!」
「……グルウアァッ!」
ガズィーゴの頭部が唸りをあげ、砲弾のような勢いで消化液の塊を口から吐き出す。ボーンクリスタルに直撃し、四つの破片に砕けてしまった。
「砕かれてしまいましたね。アゼルさん、次の手は?」
「大丈夫です、砕かれるのは想定の範囲内ですから。むしろ、こちらの手数の増強になりますよ。小さくなっても、反射能力は変わりませんから!」
「なるほど、ならば……と、その前に、まずは相手の攻撃を防がねばなりませんね」
邪魔なボーンクリスタルを破壊したセルトチュラは、意気揚々とアゼルたちへ向かって突進を始める。動きこそ鈍重だが、バキバキと魔法陣を砕きながら近付いてくる迫力は凄まじい。
「さあ、まずはどちらから殺してあげましょうか。我々の宿敵の子どもか、いけ好かないメイドか……決めました、両方同時に殺しましょう! アシッドボム!」
「食らいませんよ、そんなもの。ボディガードプログラム、ガーディアンアーム」
今度はアゼルたちを狙って消化液の塊が吐き出され、凄まじい勢いでカッ飛んでいく。ファティマは至って冷静に呟いた後、左手を引き抜き肘から先を変形させる。
分厚い銀色のカイトシールドとなった腕で消化液を受け止めると、シュウウウ……という音と共に盾が僅かに溶ける。完全に溶かしてやろうと、セルトチュラは追撃を見舞う。
「さあさあさあ、二人仲良くドロリと溶けてしまいなさい! そして、苦悶に歪む顔を私に見せるのです!」
「やれやれ、悪趣味なこと。カトンボはどこまでも下品ですね、はしたない」
「なんとかして攻撃をやめさせないと……じゃないと、ファティマさんの腕が……」
「優しいのですね、アゼルさんは。大丈夫ですよ、わたくしのボディは何十何百、何千回とバージョンアップを重ねています。なので、この程度は全然問題ありません」
心配そうに声をかけてくるアゼルの頭を撫でつつ、ファティマはケロリとそう口にする。実際、盾の表面が溶ける度にすぐ修復されており、完全に溶けることはなさそうだった。
「とはいえ、やられっぱなしというのも癪ですね。盾の覗き穴から見えるカトンボの得意気な顔は、見ているだけで苛立ちます」
「それなら、ぼくに任せてください。セルトチュラの注意を引いて攻撃を止めさせられれば、反撃のチャンスも出てくるはずですから! サモン・ボーンビー! の大群!」
このまま膠着状態が続くのはよろしくないと考え、アゼルはボーンビーの群れを放つ。少しでも相手の気を反らすことが出来れば……と、あえて羽音をうるさくする。
「あら、また懲りずに骨など出して。ムダなことだというのに。ガズィーゴ様と融合した私に、敗北などあり得ませんよ」
「そウだ。お前ハ負けナい。我がイる限り、決してな」
「まあ、会話が出来るようになられたのですね、ガズィーゴ様。スケルトンを食べたおかげでしょうか? 私とても嬉しく思います」
不敵な笑みを浮かべるセルトチュラに、ガズィーゴがそう囁きかける。融合の影響か、はたまたアゼルが操るスケルトンを喰らったからか。
まだところどころぎこちなくはあるものの、ガズィーゴは知性を開花させ話が出来るようになりはじめていた。二人の会話は、ファティマの耳にも届く。
(あの竜、少しずつ知能が上昇している? だとすれば、やはり千変神が危惧したようなことが起こり始めていますね……急いで仕留めねば、大変なことになりますね、これは)
「ファティマさん? どうしました?」
「いえ、なんでもありません。あのカトンボの鼻をどうやって明かしてやろうか、今考えて……む、攻撃が止みましたね、アゼルさん! 今が好機です!」
ガズィーゴの変化を凶兆と捉え、早く事態を解決せねばと思考を巡らせていると、相手の攻撃が止まった。ボーンビーが纏わりつき、針を刺して妨害しているのだ。
「全く、邪魔なハチですこと。そんなに死に急がなくても、纏めて始末して……」
ボーンビーを叩き落とすのに注力しているセルトチュラはらアゼルたちから視線を外している。反撃するならば、今しかない。
「ファティマさん、反撃しましょう! 出でよ、凍骨の大斧! 戦技、シューティングスター・アックス!」
「! この斧……ふふ、ミス・ダンスレイルに見せたら興味を持つでしょうね……っと、それよりも。ウォッシングプログラム、サンフレア!」
アゼルは生き残っているボーンビーを操り、念のためにセルトチュラとガズィーゴの視界を塞いでから勢いよく大斧をブン投げた。ファティマもそれに合わせ、熱線を放つ。
「あら、残念残念。声と音で丸わかりですよ、攻撃してくるのがね!」
「でも、追尾してくるのと熱線が曲がるのまでは分からなかったでしょう?」
「なっ……あぐあっ!」
回避行動に移ったセルトチュラを追いかけるように斧が軌道を変え、骨の結晶に当たって向きを変えた熱線と挟み撃ちにするように攻撃が炸裂した。
予想外の一撃に、セルトチュラは表情を歪め苦悶の声を漏らす。
「ふっ、流石カトンボ。汚ならしい顔だこと。さあ、まだまだやりますよ、アゼルさん。これまでの借りを返してあげましょう」
「はい! やってやります!」
アゼルとファティマ、二人の反撃が始まる。しかし……。
(グくくクく。なるほど。少しずつ分かリハジめてきたぞ。奴らの特徴が、な)
ガズィーゴの進化も、また進んでいた。
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