38話―ケンカするほど名コンビ!

 ヴェールハイム魔法学院の校門の前、リリンとシャスティ、マクスウェルとバールヴァルディのコンビが対峙する。先手必勝とばかりに仕掛けたのは、リリンだった。


「受けてみるがいい、牙の手先どもよ。私のマジックウィップをな!」


「だとサ。マクスウェル、任せタ」


「ええ。では、私が先ですね」


 接近して戦うべきか否かを判別するため、リリンは中距離からムチを振るい小手調べの一撃を叩き込む。素早く前に出たマクスウェルは、錫杖でムチを受け止める。


 すると、錫杖が赤熱してムチを溶かしてしまった。それを見たリリンは驚きをあらわにし、残ったムチを手元に引き戻す。


「なんだ、今のは。貴様、面妖な魔法を使ったな?」


「ふふふ、いいことを教えてあげましょう。我々はとあるお方から様々なベクトルの炎を操る力を授けられましてね。私が与えられたのは……炎が持つ『溶かす』力」


「なるほど、その力で私のムチを溶かしたわけだ」


「理解が早くて助かりますね。死ぬのも早いと助かるのですが」


 皮肉たっぷりにそう言うと、マクスウェルは錫杖を槍のように構え走り出す。懐に飛び込まれてはまずい。そう判断し、リリンは素早く後退する。


「フッ、からくりが分かれば対処は容易い。貴様の持つ錫杖にさえ触れなければよいのだからな! サンダラル・アロー!」


「そう思うでしょう? でも、そう簡単にはいかないのですよ。戦技、フレアアームズ」


「! リリン、下がれ! やべえのが来るぞ!」


 マクスウェルが錫杖で地面を突くと、地中から燃え盛る炎の腕が二本現れる。リリンが放った雷の矢を握り溶かし、そのまま相手へ向かっていく。


「フッ、問題はない。何か仕掛けて来るのを見越して距離を取ったのだ。この程度……」


「ジジイの方じゃねえ! もう一人の方だ!」


「なに? そういえば、いつの間にか姿が見え……」


「俺ならここニいるぞ。お前ノ影の中にナ!」


 リリンはマクスウェルにばかり注意を向けるあまり、見落としてしまっていた。すでにバールヴァルディが姿を消し、いつの間にか自分の影の中に潜り込んでいたことを。


 無防備な背中を狙われ、防御も間に合わずやられるかと思われたその時。シャスティが割って入り、ギリギリでバールヴァルディの突き出した短剣を防いだ。


「防がれたカ。一旦退コう」


「んにゃろ、逃げやがったな! ったく、リリン、油断してんじゃねーよ!」


「済まんな。一度だけなら死んでも問題ないとなると、どうも気が緩む」


「……ケッ、まあいいや。次はアタシが出る。下がってな!」


 アイコンタクトで何かを伝えた後、舌打ちしつつ今度はシャスティが前に出る。後ろの守りをリリンに任せ、襲い来る炎の腕へ向かってハンマーを振るう。


「おや、次は聖女さんですか。大きな鉄鎚など持って……そのようなもの、溶かして差し上げましょう」


「やれるもんならやってみな! コイツは特別な加護を受けててなぁ、炎を無力化出来んだよ。証拠を見せてやらぁ! 戦技、トルネイドハンマー!」


 勇ましくそう叫び、シャスティは迫りくる炎の腕へ勢いよく回転させつつハンマーを叩き付ける。先ほどの言葉通り、炎はハンマーを溶かせず逆に四散し消滅した。


 それを見たマクスウェルは目を細め、どこか感心したように息を吐く。戦技を破られてなお余裕の態度を見せる相手に、シャスティは違和感を覚える。


「なんだてめえ、自分の技が破られたってのに……」


「ええ。破られて結構。バールヴァルディが、あなたの得物にかけられた加護をから」


「なにを……」


「解析完了ダ。その加護、もう二度とハ使わセぬ。戦技、クリアフレア!」


 次の瞬間、シャスティの影の中に移動していたバールヴァルディが現れ、ハンマーの柄を握る。魔力が流し込まれ、ハンマーにかけられていた加護が消えてしまった。


「守りの加護が! てめえ、何をしやがった!?」


「俺ニ与えられた炎の力ハ『浄化』だ。清らかナ炎は全てヲ浄化し、力を無に還ス。聖も邪モ関係なク、な……ぐっ!」


「チッ、面倒なことしやがって!」


「一度下がれ、シャスティ! 加護を消されては勝ち目がないぞ!」


 そのままシャスティに攻撃しようとしたバールヴァルディにムチを叩き付け、リリンは相方を守る。再び目配せで合図した後、後ろに下がるよう声をかけるが……。


「うっせーな! 油断してるような奴に言われたかねーわ! お前は黙ってアタシの援護だけやってりゃいいんだよ、このヒョロヒョロ女!」


「なんだと……貴様、人が心配してやれば図に乗りおって! この駄牛めが!」


 敵との戦いの真っ最中だというのに、二人は仲間割れしてしまった。互いに容赦なく攻撃を叩き込みあうリリンたちを見ながら、マクスウェルは嘲り笑う。


「愚かですねぇ。私たちがまだ健在だというのに。バールヴァルディ、もう終わらせてしまいましょう。中で同志たちが待っていますからね」


「あア、そうダな。いつも通り、例のコンビネーションで仕留めるトするか」


 そう口にすると、マクスウェルの影の中から現れたバールヴァルディが移動する。リリンとシャスティを挟むように位置取りした後、二人はそれぞれの得物に炎を纏わせた。


「溶かす力と浄化する力、二つを合わせれば……どんな物質や魔法障壁を消滅させる、滅びの炎が生まれる。この炎で、二人仲良く地獄へ送って差し上げますよ!」


「行くぞマクスウェル! 協力戦技……」


「オーバーフレア・ブラスター!」


 マクスウェルとバールヴァルディは、両手を合わせ炎の槍を作り出す。それぞれが作り出した槍を、リリンとシャスティ目掛けて勢いよく投げつける。


 槍は二人を貫き、その勢いを保ったまま融合して『溶解』と『浄化』、二つの力が合わさった滅びの炎になる……はずだった。


「来たぞ、シャスティ! 用意はいいな!」


「もちろん! いくぜ、フラッシュライト!」


「ぐうっ!?」


「め、目が!」


 槍が飛来してくるなか、リリンとシャスティは突如戦いをやめ手際よく反撃に移った。シャスティが閃光を放ってマクスウェルたちの目を眩ませ、動きを封じる。


 一瞬動きが止まった隙を突き、リリンは拘束の魔法を唱える。


「今だ! バイドチェーン!」


「しまった、身体が!」


「焦るナ、マクスウェル! シャドウ・ヅール!」


 動きを封じられながらも、バールヴァルディはリギド鉱山にて奴隷たちを捕らえた影のツタを呼び出す魔法を使い、鎖を引きちぎり脱出を図る。


「いーのかぁ? バイドチェーンに気ィ取られててよ。何か一つ、忘れてるこたぁねえか?」


「なに……? しまった!」


 鎖の対処に追われている間に、二つの炎の槍は融合を完了して炎の塊へと変化した。シャスティはリリンを担いで上空へ飛び上がり、四重の魔法の障壁を貼る。


 マクスウェルとバールヴァルディを滅びの炎と共に球状の障壁の中に封印し、全ての準備を完了させた。


「ホーリーウォール・カルテット! リリン、これなら問題ねえよな?」


「ああ、いけるだろう。あとはあの炎を暴発させるだけだ、サンダラル・アロー!」


「まずい、このマまでは……! マクスウェル、恨むナよ!」


「なに? まさか、あなた!」


 雷の矢が放たれ、障壁をすり抜けて滅びの炎へ激突する。その直前、バールヴァルディはマクスウェルの影に飛び込み、自分だけでも助かろうと目論む。


 バールヴァルディが影に潜り込んだ直後、矢が直撃した滅びの炎が爆発した。


「くっ、このおおお!!」


 マクスウェルも魔法障壁を貼り、炎から逃れようとする。しかし、自分たちで生み出した炎の前に障壁は意味を為さす、浄化されて守りの力を失い、溶かされていく。


「バカ、な……」


 爆発に呑まれ、マクスウェルは跡形もなく消え去った。四重の魔法障壁も、一番外側にあるものが僅かに残ったもののそれ以外全て消滅してしまう。


「よっ! ふいー、危なかったぜ。ありったけの魔力を込めといてよかったよかった。しっかしまあ、アタシらよくこんなアドリブでやれたよな」


「だな。例の合図で、仲間割れをして相手を油断させる作戦に出ることまでは理解したが……我ながらその後が無茶苦茶だったわ」


 地面に降り立ったあと、コツンと拳を軽くぶつけながら朗らかにそう語り合う。実はこの二人、二回の合図で最初の作戦は決めていたものの、そこから先は完全なノープランだった。


 マクスウェルたちが全力で仕留めにきたため、肝を冷やしたが……。


「ま、互いの機転が功を奏したってことだな! あんなやべー技出してきた時は流石にビビったけどよ」


「ああ、もうこんな無茶な作戦は御免ねが……シャスティ、まだ終わっていないようだ、あれを見ろ」


「貴様ラ……よくも俺たチをコケにしてくれたナぁぁぁ!!」


 牙の手先を倒したと思っていた矢先、地面に残った焦げ跡からバールヴァルディが現れ、先端が鋭く尖った影のツタを伸ばして攻撃してきた。


 ツタを避けつつ、リリンたちは一旦後ろへ下がり体勢を立て直す。


「へっ、相方を見殺しにしといてナメたこと言ってんじゃねーよ! こっからはニ対一だ、さくっと倒してやるぜ」


「ああ、我らのコンビネーションでな!」


 怒りに燃えるバールヴァルディにそう啖呵を切り、リリンとシャスティは笑い合う。最強コンビの勢いは止まらない。残る敵を倒すため、二人はさらに闘志を燃やすのだった。

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