20話―骨と肉の戦い
「へぇ、言うじゃないの。その道端に吐き捨てられたタンカスほどの価値もない自信を、木っ端微塵にしてやるよ! ミート・マシンガン!」
アゼルを嘲笑いながら、ヴァシュゴルはさらに肉の弾丸をバラ撒く。華麗に攻撃を避けるムルの背中の上で、アゼルは隙を見て避難を終えたスケルトンナイトたちを呼び戻す。
一体、三体、五体……と、スケルトンナイトたちが集結し、ミート・マシンガンを避けながらフレッシュゴーレムの右足へ集中攻撃を叩き込む。
『なるほど、片方の足を集中的に攻撃して堅牢な防御を突破する作戦か』
「
スケルトンナイトたちの行動を見て、ムルはアゼルの狙いに気付きそう口にする。アゼルの言葉通り、ヴァシュゴルは骨の騎士たちの狙いに即座に気付き反撃を行う。
「ふん、大方このフレッシュゴーレムの足を破壊しようってんだろ? ムダだよ、ムダムダ。ぜぇぇぇんぶムダ! たかが骨ごときが集まっても! 肉には勝てないんだよ!」
そう叫びつつ、ヴァシュゴルはフレッシュゴーレムを操りスケルトンナイトたちを踏み潰させた。骨の結合が外れ、バラバラになり吹き飛んでしまう。
ゴーレムの右足には、僅かな傷しか付いていない。頼みのスケルトンが全滅させられ、勝負あったかに思えたその時。アゼルの真の作戦が発動する。
「あーっはははは! ざまぁみろ! 自慢の骨も、バラバラになっちゃあ使えねーなぁ!」
「いいえ、バラバラになったからこそ、意味があるんです。スケルトンナイト、集骨! 現れよ、スカルタイタン!」
「んなっ……!?」
『こ、これは!? 骨の……巨人か!』
アゼルの号令の元、バラバラにされた無数の骨がひとりでに集まり結合していく。あっという間に、フレッシュゴーレムとほぼ同じ大きさの骨の巨人へ姿を変えた。
「これで、フレッシュゴーレムとは体格は互角。そして、余計な肉がないぶんスピードはこっちが上! スカルタイタン、お返ししてあげなさい! 戦技、パンツァーガトリング!」
「カカカカカカカ……」
「まずい、ガードしろフレッシュゴーレム!」
主の言葉に従い、骨の巨人は不気味な笑い声をあげながらフレッシュゴーレムへ凄まじい速度でラッシュを叩き込む。ゴーレムは全力でガードするも、あまりの威力に少しずつ後退していく。
『ムー、ルー、今のうちだ。あの腐肉の巨人の背後に回り込み、我らを汚した愚か者を引きずり降ろせ!』
「あおーん!」
「うおーん!」
フレッシュゴーレムが防御に手一杯になり、身動きが出来なくなった隙を突き霊獣親子の逆襲が始まった。ムーとルーは素早く相手の背後へ回り込み、爪を突き立てる。
そして、振り落とされないようフレッシュゴーレムの身体を少しずつよじ登っていく。まずいと感じたヴァシュゴルは、一瞬ゴーレムの操作を止め、魔法を放つ。
「来るんじゃねえ、犬っころが! ペイン・コール!」
「きゃうん!」
「きゃあん!」
『ムー! ルー! 貴様、よくも! アゼル、しっかり掴まっていろ。今度は我が行くぞ!』
ムーとルーは魔法の直撃を食らい、あと少しのところで振り下ろされてしまった。それを見て、今度はムルがフレッシュゴーレムの背後に回り込む。
『我が牙で腐肉を噛み千切ってくれるわ!』
「チッ! 面倒くせ……んん? 骨巨人の攻撃が緩んできたな。ああ、そうか。このガキ、魔力が切れかけてるな? なら……食らいなァ! ミート・マシンガン!」
『まずい、避けきれ……ぐああっ!』
「うああっ!」
ムルが攻撃を仕掛けようと、大口を開けたその時。大人数の蘇生と、長時間に渡るスケルトンの操作により一時は回復したアゼルの魔力が再び切れかけてきた。
その結果、スカルタイタンの動きが鈍りヴァシュゴルにとっての好機が訪れる。素早くフレッシュゴーレムの左腕をアゼルとムルに向け、肉の弾丸を叩き込んだ。
「けほっ……。ムルさん、ごめんなさい。せっかくのチャンスだったのに……」
『気にするな。ここまで攻めあぐねた我にも……ぐぅ、責任は……ある……』
「あらら、しぶといね。まだ生きてるんだ。まあいいや、次で殺すよ。仲良くあの世に……」
ヴァシュゴルは腐肉を補充し、負傷したアゼルとムルにトドメを刺そうとする。直後、木々の間から走り寄ってくる二つの影があった。
「させねえよ! 戦技、オールノックブレイク!」
「シャスティさん!? 安全な場所に逃がしたのにどうして!?」
「どうしてって? はっ、アゼルにだけ任せっきりにしてたら、後でリリンにはっ倒されちまうからな! 体力回復させて、助太刀に戻ってきたんだよ!」
スケルトンナイトによって避難させられたシャスティとジークガルムが、アゼルを助けるため戦場に戻ってきたのだ。シャスティの一撃で、フレッシュゴーレムの右足に亀裂が走る。
「このクソアマが! のこのこ死にに戻ってきやがったか!」
「おっと、某のことを忘れてもらっては困りますなぁ。我が部下たちを殺した罪、償ってもらおう。戦技……ウィングリッパー!」
「なっ……がああっ!」
雪だるまのような体型もなんのその、フレッシュゴーレムの背後に回ったジークガルムが跳躍し、ロングソードでヴァシュゴルの右腕を切り落とした。
「アゼル、今のうちにマナポーション飲んどけ。これで魔力が回復するぜ。おっさんも長くはもたねえ、急ぎな」
「ありがとうございます、シャスティさん。じゃあ、いただきます」
ジークガルムがフレッシュゴーレムの相手をしている間に、アゼルは魔力を回復させる。腕を切られ、激痛に悶えながらもヴァシュゴルは攻撃を行う。
「このクソどもが! 全員死ね! ミート……」
「そうはさせない! 皆さん、総攻撃です! 戦技、ボーンスクリュー・ナックル!」
「任せな! 戦技、トルネイドハンマー!」
「同じく! 戦技……クロスアウト・スラッシャー!」
『終わりにしてやろう。霊獣の怒りを思い知るがいい! フェンリルファング!』
フレッシュゴーレムが攻撃を放つよりも早く、スカルタイタンとシャスティ、ジークガルム、そしてムルたちの連携攻撃が炸裂した。
シャスティの振るうハンマーがフレッシュゴーレムの右足を砕き、ジークガルムの放った斬撃が脇腹を切り裂く。ゴーレムの体勢が崩れ、ヴァシュゴルが転落する。
「うおあっ!?」
『命への敬意を持たぬ不敬者よ、死を以て償うがよいわ!』
「がはっ、ああ……」
怒れる狼の牙が、ヴァシュゴルの下半身を噛み砕いた。鮮血を撒き散らしながら、ヴァシュゴルは地面に叩き付けられる。術者が倒れ、フレッシュゴーレムが溶けて崩れていく。
「へへっ、やったなアゼル! アタシたちの勝ちだぜ!」
「はい! みんな、ありがとうございます! みんながいたからこそ、もぎ取れた勝利です!」
「ふふ、騎士として恩を返すことが出来立てよかった。アゼル殿のお役に立てて、某は嬉しいですぞ!」
宿敵を打ち倒し、ムル親子の雪辱も晴らせたアゼルたちは勝利を喜び合う。その最中、絶命したはずのヴァシュゴルが頭をあげ声を絞り出す。
「はっ……。やられたよ、完敗だ……。いいさ、今回は負けを認めてやるよ。この肉体も、精神を憑依させたスペアに過ぎない。本体は無事さ、まだ次がある」
「負け惜しみですか? ヴァシュゴル、何度戦っても結果は同じです。次も必ず、ぼくたちがお前を倒します」
「やってみな。ガルファランの牙に、二度の敗北はない。次は本気だ。今度こそ……お前を殺すぞ、アゼル! あーっはっはっはっはっ……は……」
最後にそう言い残し、ヴァシュゴルの精神がスペアの肉体から消え本体へ戻る。死体は肉も骨も残らず、溶けて消滅してしまった。
『アゼルよ、ありがとう。そなたのおかげで、我らは本願を成就出来た。……今は、やらねばならぬことがあるのだろう? それが終わった後、改めてここに来ておくれ。礼の品を用意して待っているから』
「はい。楽しみにしてますね。それじゃあ、行きましょう。シャスティさん、ジークガルムさん」
「うむ。任務の総仕上げと行こう。ガルファランの牙の拠点を、総力をもって壊滅させる!」
ムル親子と別れ、アゼルたちは避難させた騎士たちの元へ向かう。当初の任務を、完遂するために。
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