19話―激突! アゼルVSヴァシュゴル!

「アゼル……やっと来たか。へへっ、狼になんて乗ってよ……かっこつけちゃって、まあ……」


「遅れてごめんなさい。ここからは……ぼくたちが戦います。サモン・スケルトンナイツ!」


 アゼルはムルの背中からヒラリと飛び降り、右手で地面を殴り付ける。それと同時に、総勢二十体のスケルトンの騎士が創り出され、シャスティたちを守るため立ちはだかる。


「ふん……もう来ちゃったの。気に入らないねぇ……ほんと、気に入らないよ。せっかく、これからなぶり殺しショーをしようと思ってたのに。まあいいさ、このヴァシュゴル率いる屍の方が数は上だからね!」


「!? また死体が……」


 不機嫌そうな声を出しつつ、ヴァシュゴルは指を鳴らす。すると、別動隊として先行していた騎士や、偵察の任務についていた冒険者の死体がワープしてくる。


 彼らの死体もまた、ヴァシュゴルのネクロファンタズマによって操られアゼルたちの敵となってしまう。相手の人数は三十三人となり、劣勢に追い込まれてしまった。


 ……アゼルがいなければ、の話だが。


「残念ですね、ぼくがいる限り……お前の思い通りには、絶対にならない! ターン・ライフ……オーバーフレア!」


「ぐうっ!」


「おお……炎が、広がっていく……」


 アゼルは左手をかかげ、紫色の炎のリングを放つ。リングは水平に広がっていき、傷付いたシャスティたちを癒し、死した騎士や冒険者たちに新たな命を与える。


「う……ここは……?」


「俺たち、助かったのか……?」


「これで形成逆転ですね、ヴァシュゴル」


 炎のリングは牙の戦士たちだけを燃やし尽くし、それ以外の者たちをよみがえらせた。いくら屍肉派のネクロマンサーといえども、灰になった死体は操れない。


「ぐぬぬぬ……! よくも、よくも私の武器を!」


『アゼルよ、はじめるとしよう。我らを惨殺した報いを、この者に受けさせねばならぬ』


「いいですよ。スケルトンたちも、やる気十分ですから! その前に、皆を避難させますね」


 ジークガルムやシャスティたちは言わずもがな、蘇生した者たちも体力をかなり消耗した状態にあり、まともに戦うことは出来ない。


 アゼルはスケルトンナイトたちのほぼ全てを彼らの避難に割き、残り一体にさらに魔力を注ぎ込んで強化し、ヴァシュゴルと対峙する。


「ハッ、逃がすかよ! てめえら全員皆殺しだ! 一人も生かして帰さねえ! ガイアスパイク!」


「させません! スケルトン、退避!」


『散れ! ムー、ルー! 避難が終わるまで、奴の邪魔をするのだ!』


 誰も逃がしはしないと、ヴァシュゴルは地面から土のトゲを出現させて全員を貫こうとする。それよりも早く、アゼルは騎士たちを担いだスケルトンを避難させた。


 子狼たちは縦横無尽に走り回り、スケルトンナイトと共に土のトゲが出現するたびに体当たりで破壊していく。ムルはアゼルのローブを加え、頭を振って再び己の背に跨がらせる。


『ゆくぞアゼル! かの者に、今こそ裁きを!』


「はい!」


「チィィッ、調子に乗るなァ! こっちには、まだ切り札があるからな! いでよ、フレッシュゴーレム!」


 騎士たちを取り逃がしたヴァシュゴルは、ムーとルーの攻撃を避けつつ、苛立ちをあらわにしながら再び指を鳴らす。すると、地面に大きな魔法陣が現れ、そこから巨大な肉塊が出現した。


「あれは……!」


『アゼルよ、アレが何なのか知っているのか?』


「……はい。昔、お母さんから聞いたことがあります。屍肉派のネクロマンサーは、たくさんの死体を使って、おぞましいゴーレムを作る魔法を使えるって……」


 凄まじい死臭を放つ肉塊……フレッシュゴーレムを前に、ムーとルーは後退りしてしまう。人獣を問わず、様々な死体を乱雑に混ぜて作られたソレに、手と足が生えてくる。


「どうだい、素晴らしいだろう? お前みたいな骨しか扱えない出来損ないと違って、我ら屍肉派が扱う魔術はどんなことだって出来る! さあ、行けフレッシュゴーレム! 奴らを踏み潰せ!」


「オオォォォ……」


 ヴァシュゴルが命令を下すと、フレッシュゴーレムが巨大化しムルと互角の大きさへ変わる。無数の屍肉が混ざった足を振り上げ、ムーとルーを踏み潰そうと攻撃を仕掛けてきた。


『避けろ! ムー、ルー、まずは様子を見るのだ。迂闊に仕掛ければ返り討ちにされる。冷静に動け!』


 ムルの指示通り、二頭の子狼はフレッシュゴーレムの踏みつけを避けた後、ヴァシュゴルを牽制しつつ一定の距離を保ち隙を窺う。


 その間に、アゼルはスケルトンナイトを先行させ攻撃を行わせる。術者によっては、フレッシュゴーレムに厄介な能力が付与されていることがある。


 まずは、それを見極める必要があるのだ。


「スケルトンナイト、まずは足を破壊して動きを鈍らせて!」


「ふん、そうはいかないね! 屍操術……メタリック・スキン!」


 スケルトンナイトが足を狙って攻撃を行った直後、ヴァシュゴルがフレッシュゴーレムの表面を硬質化させ剣を弾いてしまう。かなりの硬度を誇っているようで、傷口一つ付いていない。


 ヴァシュゴルは突進してきたムーを避け、フレッシュゴーレムの肩に一息で飛び乗る。直接攻撃をされて自分が倒されれば、ゴーレムも消滅してしまうからだ。


「硬い……! スケルトンナイトじゃ歯が立たない!」


『むう……ムーとルーはまだ幼子故に無理そうだが、我の爪や牙ならば硬質化した肉も切り裂けよう。アゼル、突撃するか?』


「いえ、もう少し様子を見ます。ヴァシュゴルほどの男が、あの程度の強化しか出来ないはずがありません。たぶん、まだ何か切り札を隠しているはず……それを確認してからですね」


『承知した。ムー、ルー! もうしばらく様子見だ! 攻撃はしてもよいが、無理はするな!』


 アゼルには、ヴァシュゴルがまだ何かを隠しているように感じられた。無数の魔物や死体を操る、強大な魔力の持ち主が硬質化程度の強化魔法しか出来ないとは思えなかったのだ。


 なんとしても、ヴァシュゴルの持つカードを全て切らせる。そのためには、こちらも持てる力の全てを使う。そう決意したアゼルは、こっそりローブの中に潜ませたボーンビーを放つ。


「いけっ、ボーンビー! ヴァシュゴルの目を攻撃です!」


「このガキ……! まだハチを隠してやがったのか!」


 八匹いたボーンビーのうち、シャスティたちに同行させた六匹は握り潰されてしまった。が、アゼルと同行していた二匹はいまだ健在である。


 動きの鈍いフレッシュゴーレムを無視し、術者を直接狙う。そうすれば、ゴーレムの操作にかかりっきりで攻撃に手を回せないヴァシュゴルは切り札を使わざるをえない。


「チッ、面倒なことを! 仕方ない、温存しておくつもりだったが……こいつで一網打尽だ! ミート・マシンガン!」


 苛立ち混じりに舌打ちしつつ、ヴァシュゴルはフレッシュゴーレムに魔力を注ぎ込む。すると、ゴーレムの右手の指がアゼルたちに向けられ、肉の弾丸となって放たれる。


『まずい! ムー、ルー、避けろ!』


「スケルトンナイト、盾で攻撃を防いで!」


 無数の肉の弾丸が向かってくるなか、霊獣親子はヒラリと華麗なステップで回避し、スケルトンナイトは指示通り大盾を構えて攻撃を受け止める。


 フレッシュゴーレムの右手の指が全て弾丸として消費され、攻撃そのものは終わった。しかし、即座に屍肉が増殖し補充されてしまう。


「あっははは! どうだい、これが私の切り札さ! どれだけ逃げようが防ごうが、スタミナが減ればもう終わり。最後にはミート・マシンガンの餌食になるのだよォ!」


「……そう簡単にはいきませんよ。そっちの切り札さえ分かれば、対策なんていくらでも考えられますから。ここからは、ぼくたちの番です!」


 狂ったように高笑いするヴァシュゴルに、アゼルは自信満々にそう答える。その顔に、不敵な笑みを浮かべて。

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