第十六話 第五の試練
「春間!っ」
少女は春間の顔にそっと触れ、「可愛いわね?」と呟いた。そして、「錬磨さん、だったかしら?」と訊ねてきた。その質問に対して、僕は「だったら何だよ?」と、多少攻撃的な反応をしてみた。するとその少女は、「恐い人ね?」と言って小馬鹿にするような笑みを浮かべ、「大丈夫よ?」と言った。
「私は別に何もあなた達に危害を加えるつもりはありません。私が用があるのはこの
春間さんにだけ。そう、この――」
無邪気に舌なめずりをし、
「可愛いお嬢さんだけに。ね?」
見た目だけなら確かにどの少女達と比べても大差ない可愛らしさだったが、しかし
何故だか敵対心しかいだけなかった。何と言うか、こう、信用してはいけないような
気がしてならない。というべきだろうか? ただでさえ春間を人質の様に扱っている
辺りが本当に信用出来なかった。
「じゃあ質問を変えてみようか……その子に何の用だ?」
「用事の内容ですか? そうですね、まぁ教えて差し上げてもいいのですが、でも、
一つだけ条件があります。その条件はそう簡単なものではありませんが……それでもいいの?」
少女はやはり無邪気に微笑み、僕を見つめた。
――どうとでも言え。僕はお前らみたいな奴が大嫌いなんだ。
「上等だ。これが夢だって言うんなら話は早い。何だって受け入れてやるよ!」
「そう、だったら教えましょう」
一拍の間を置いてから、少女はこう言った。
「葬儀をおこないます」
「葬儀だ? ……まさか、春間の?」
「そうです」
一体何を言っているのだろう? 確かに春間はこのような痛々しい姿になってしまってはいるが、それでもこうして生きているんだ。何よりここは夢の中で……、
――夢?
そこでふと、ある事を思う。昔僕が普通に生活していた頃もよく思っていた事だ。
――そういえばアリスも言っていたけれど、眠ったままの状態で死を迎えた場合、
果たしてどうなってしまうのだろう?
「おい」
「何でしょう?」
「アリスも言っていたが、もしも眠った状態のままで死を迎えた場合、その際意識は
どうなるんだよ?」
「……さぁ?」
少女はとぼけ、しかし一言だけ、「或いは、とてもつらいかもしれませんね?」と
言った。そんなふうに簡単に物を言う少女に対して、僕はとても強い怒りを覚えた。
――適当な事を。
「名前を教えろ」
「名前ですか?」
「お前の名前だよ!」
僕にそう訊ねられた少女は、口元だけで笑い、こう言った。
「私の名は黒坂真宵。禁じられた葬儀を担う者です」
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