第十四話 お菓子をくれないと……
「けっきょく、さっきの子も死んだんだよね? キミのせいで」
例え同行は許したとしても、僕はかなり根に持つタイプだから、先程の件に加えて
今僕の背中で眠っている春間の件については未だに許してはいないし、無論これから
先も許すつもりはない。
――もしもリリーちゃんがいなかったら、多分雄兎ちゃんじゃなく、僕自身がこの
クズをぶち殺していただろうけどね?
内心でそう思いつつ、一先ずはそれを表に出さない様に気を付けつつ、上部面では
何ともないように装い、僕はリリーちゃんにこう訊ねてみた。
「ところで、すっかりあの子の事見失っちゃったけど、どこに行っちゃったんだろうね?」
僕が気になっているのは、今は、あくまでも今は、誰の事よりも、華菜ちゃんの事だけだった。
――形としては敵だけど、やっぱりあの子も元々は普通の人間だったんだし、僕が
助けてあげなくちゃ。
「わ、悪かったわね? って言うか、あんた……渡良瀬のほうこそ、ついこの前まで
リリーの事嫌ってなかった?」
「……何? まだそんな事言うの?」
僕では飽き足らず、リリーちゃんの悪口まで言うつもりなら、本当に容赦なくこの僕自身がこの手でこいつを殺すつもりでいる。
――あくまでつもりだから、一種の脅しでしかないんだけどね?
「べ、別に、そんなつもりじゃ……」
「マスター、少々美琴様が可哀想です。そろそろお許しになられてはどうですか?」
「まぁリリーちゃんがそう言うなら……命拾いしたね? 美琴ちゃん」
美琴は軽く胸を撫で下ろした。
――所詮はその程度なんだよ、お前みたいな奴は。
内心でそう罵りつつ、今度は雄兎ちゃんに次のような質問を投げかけたみた。
「ところでさ、雄兎ちゃん? キミと知り合ってから同行するまでの間に随分時間が
経ったようにも思えるけど、キミの人形はどこにいるの?」
そう訊ねた僕に、雄兎ちゃんはこう応えた。
「じゃあ逆に訊くが、あんたはあたしの人形、どこにいると思う?」
何ともおかしな質問ではあったが、しかしそれを最初に投げかけたのはこちらの方
なので、少しよく考えてみる事にした。
「……なんて、別に隠しても仕方ないし、教えてやるよ」
こいつさ。と言って、雄兎ちゃんは自身が身に纏っているジャージのファスナーを
半ば程下ろし、それを僕達に見せつけた。
「こいつだ」
それは彼女の大きな胸の間に挟まれるようにして抱かれていた一匹の子犬だった。
「その犬がキミのパートナーなの?」と訊ねてみると、彼女は「ああ」と即答した。
その子犬のような人形は、一見すればただおとなしそうな見た目だったが、じっと
見つめていると唐突に、「何だよ?」と口を利いてきた。それに対して驚いた僕を、
その犬はどう思ったのか、「なんだ、やっぱりお前もか」と、まるで何か落胆的な物
言いをしてきた。
「そりゃそうだよな? 俺みたいに一見すれば普通の犬、或いは人形が唐突に口開いたら、そりゃ驚くよな。でもな人間? 一つだけ、これだけは憶えてろよ?」
そう言って一度口を閉ざし、ゆっくりとした口調でこう言った。
「俺だって、好きでこんなふうにしてるんじゃないんだよ」
それはどこかとても憂いを感じさせる口調と態度だった。でも僕には何となくその
気持ちが解るような気がした。
――やっぱりこいつも僕と同じか。僕と同じで、好きでこの世界にいる訳じゃないんだよな?
多少の違いはあれど、それでも『好きで』という部分では、僕とこの子犬の意見は
一致している……ような気がする。
「それで、キミの名前は何て言うの? ちなみに僕の名前は渡良瀬錬磨。よろしく」
「俺の名はガルム こいつのパートナーで、禁忌の
よろしく頼む、渡良瀬錬磨」
「錬磨でいいよ。ガルム?」
どうやら僕とこの子犬は気が合うようだ。もっと言えば、少しばかり使い方は違う
かもしれないけど、『利害の一致』はしているようだ。
「ところで錬磨、俺はお前に一つだけ確認したい事がある。いいか?」
「何?」
そこでガルムは僕に向けて、今先程までの穏やかな視線とは全く別のものを突き刺してきた。
「お前は絶対に、この俺を、俺達を裏切るなよ? 渡良瀬」
まるで、もしもそれを破れば、それでこそ容赦なくぶち殺しそうな、そんな勢いだ
った。
「……ねぇガルム?」
「何だ?」
「もしも僕がキミを裏切ったら……どうするつもり?」
「……」
その時、ガルムは雄兎ちゃんのほうを見上げた。その眼差しは、まるで、「俺の本音、言ってもいいよな?」と訊ねているようだった。そして、彼女からの了承と思しき頷きを貰ってから。再びこちらを向き、こう言った。
「殺してやるよ。この俺直々に、徹底的に」
冗談を言っている様子ではなかった。むしろマジで今すぐにでもそうされてしまいそうな気もした。
「だからな、錬磨? 今も言った通り、絶対に……」
ガルムが続きを口にしようとした時だった、
「trick or treat」
背後からそんな声が聴こえてきた。
そう、その声の主、それは、
「華菜、ちゃん?」
「さっきぶり」
決して笑わないその顔に、やはり表情はなく、その代わり、彼女は僕に向けてこう
言った。
「お菓子、ちょうだい」
それと同時に、またあの月夜が僕達を包み込んだ。
そして、彼女はこう口にした。詠唱だった。
これより始まりまするのは、死の大サーカス。皆々様もご参加可能の、死の演目で
ございます。さぁどなた様でもご覧あれ。今ならお得に夢見心地となれるでしょう。
そう、
「私のように!」
それでも華菜ちゃんは大粒の涙を流し、そのうえで大声で笑い続けていた。
いよいよ、この舞台も大詰めのようだ。
受けてやる。参加してやるよ。
――キミの、
「過去という名の、死の
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