第九話 第三の試練

 次の舞台はどこかのテーマパークのようだった。

 ――という事は、次の担い手は誰だ?

「素敵な場所ね? ……あくまでも、場所は。ね?」

 利璃亜ちゃんの言う事も一理ある。何しろ、ここは何度でも言うように夢の世界、

且つ試練の舞台だからである。

「ところで三人共」

僕はこの舞台の向こうに見えるある人物の姿に向けて指を差しつつ三人を呼んだ。

「あそこのいるのって、もしかして試練のメンバーじゃない?」

 耳が隠れる程度の長さの髪とどこかの学生服を纏った一人の少年の傍に――あの子は人形だろうか?――背の低い、腰辺りまでの長さの綺麗な髪をもつ可愛い女の子が

いた。

「そうみたいですね」

 リリーちゃんもそういうのであれば恐らく間違いではないだろう。そうと解れば、

後は仲間に出来ればいいだけなのだが、やはりそう上手くはいかなかった。

「誰だお前ら?」

 少年は恐ろしい視線をこちらへと向けてきた。そのうえ彼の傍にいる人形の女の子

ですらも、「あの人達、誰?」と、敵意を剥き出しにしていた。僕は慌てて自分達も

彼らと同じ試練のメンバーであると告げた。のだが、返ってき応えは、「そんな事は

訊いてない」だった。少年いわく、僕達は自分達の敵なのかどうか? と言う意味で

訊ねてきたらしい。それに対して、僕達も僕達で、ランダムに等しい形でこの世界に

足を運んだのだ。と説明すると、彼は沈黙し、何かを考える素振りを見せた。

「……おい」

 少年はそう言って、「お前のパートナーはどいつだ?」と訊ねてきたので、一先ず

はリリーちゃんの事を紹介した。すると少年は、「なるほどな」と呟き、改めて僕達

四人に向き直った。

「俺は神楽和毅かぐらともき。隣にいるこの人形、咲夜に選ばれた存在にして、

この夢の試練に選ばれた一人でもある。ちなみにもう既に脱落者も出たらしい」

 ――脱落者……、

「何人くらい?」

「俺達を含めた十五人のうち、今のところ五分の一ってところか」

「つまり、三人くらいは死んじゃった。って事だよね?」

「そういう事だな」

 ――この短期間で三人も。まさかそんな簡単に。

「ねぇ和毅君、一つ訊いてもいいかな?」

「何だ?」

「キミとその咲夜ちゃんも、やっぱり夜に出会ったの? ……例えばその、満月の晩

とかにさ?」

 僕の質問に対して和毅君は、「この夢に選ばれた奴らは大抵がそうだ」と応え、

「だから一つずつの試練の最後に待つのは月夜の光景だ。そしてその、最後の戦いで

敗れた奴らはその月に魂を奪われるらしい」

 お前らの名前は? と、そんなふうにほんの少しだけ柔らかくなった表情で僕達に

訊ねてきてくれたので、僕達一人一人の自己紹介を簡潔に終え、最後に「よろしく」

と挨拶を交わし、今後の予定を立てた。

「――それで、和毅君はこれからどうするつもりだったの?」

「俺はまず、このパーク内のどこかにあるアイテムを探すつもりだ」

「アイテムって?」

「ここの担い手はどうやらこのパーク内で命を落とした子供らしく、そいつを宥める

為という理由も踏まえつつ、そのアイテムを集める必要がある。と、俺がこの世界に

来る際に助言を貰ったんだ」

「そうなんだ」

 ここで命を落とした子供。その子が今回のこの世界の担い手、か。

 ――だけど、だとしても、

 ここで僕はある事を思った。

 ――そんな事言ったら、下手したら今回のその子は一人じゃ済まなくなるかも。

 何となく不吉な事を考えてしまい、一瞬だけゾッとしてしまった。僕はそれがバレ

ないように可能な限りのポーカーフェイスを装った。

 その時、何か視線のようなものを感じ、そこに注目すると、

「……」

 咲夜ちゃんが僕の方をじっと見つめていた。そしてこう訊ねてきた。

「あなたも、選ばれた人?」

 リリーちゃんとは違い、咲夜ちゃんの目つきはおっとりとした感じだった。しかし

強いていえばどこかジト目な感じで、正直それが少しそそられた。

 ――僕ってロリコンなのかな?

「どうかしたの?」

「へ? ああうん、何でもないよ?」

「そう」

 危ない危ない。この子達の場合、主である僕達の心中を察することが出来るみたい

だから下手したらバレるかと思った。

 ――まぁ幾ら人形とは言え、相手は子供だし、そんなはず……、

「お兄ちゃん、この人が、わたしの事をヘンな目で……」

「そ、そんな事ないよ! 確かに、ちょっと可愛いなとは思ったけど……し、信じて

よ和毅君! それに咲夜ちゃんも!」

「……けっ、んな事どうでもいいよ。俺には関係のない事だ。それより渡良瀬」

 そこで一旦言葉を区切り、僕の方を振り返った。

「お前、確かもう一人パートナーがいたんだよな?」

「う、うん。そうだけど、どうして解ったの?」

「お前には関係ねぇ……リリーの事、大切にしろよ?」

 意味深なその一言に、しかし僕は彼なりの優しさを感じ取る事が出来たような気が

した。

「ありがとう、和毅君」

「勘違いするな。別に俺はお前を励ます為に言ったんじゃねぇ。ただ……」

 俯いたその顔には何か陰りがあり、何か嫌な事を思い出したようにも見えた。

「ただ?」

「……いや、何でもない。ただの独り言だ」

「そう」

 絶対嘘だ。内心でそう思いつつ、しかしせっかくの彼からの好意を無碍にはしたく

なかったので、今はあえて余計な事は言わないでおく事にした。

 ――多分話したくなった時に話してくれるだろうから。

 相変わらず咲夜ちゃんがこちらをじっと見つめている。何を言いたいのか、何を考えているのか解らないその顔を見ていると、何やらモヤモヤとした感情が込み上げて

くる。

 ――クソ、最後に部屋にいた時、寝る前にエロゲ―なんてするんじゃなかったよ!

「ひょっとして、あなたってろりこ……」

「女の子がそんな事言うもんじゃないからね? 年上の人をからかうもんじゃないからね? 可愛い顔して挑発しちゃ駄目だからね!」

「……変なの」

 ――悪かったな。

「チッ」

 どうやら和毅君を怒らせてしまったようだ。面倒臭い事にならないうちにそろそろ

この舞台の担い手を探しに行くとしよう。


「広いところだね?」

 どこを見渡してもアトラクションばかりで人の気配は感じられない。

 ――まぁ何度でも言うようにここは夢の中だから、当たり前と言えば当たり前なん

だけどね?

「リリーちゃん、ここからは真剣な場面だから、手、繋いでくれる?」

「イエス、マイマスター。」

「ありがとう」

 リリーちゃんの柔らかな手を取り、僕は様々な意味で気合を入れ、そして更に先を

急いだ……。

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