第八話 最後の願い

「決着を着けよう、朝霞ちゃん」

「望むところです 渡良瀬錬磨」

 僕の右腕はいまだにズキリと痛む。けれど、もう大丈夫だ。何故なら、今の僕にはこの子達三人がいるから。特にリリーは、リリーちゃんは、メリーちゃんの為だけに僕に協力してくれたのだから。そう、つい先程まで、この二人さえいれば何とやらと言っていた僕なんかをここまで支えてくれているのだから。だから、

 ――昔の僕は、もう死んだんだ。

 今の僕は生まれ変わったはずだ。身体的ではなくとも、せめて、精神的に。それもこれも、すべてはこの子達とリリーちゃんのお陰なんだ。

「夢の中なら、何だって出来るよね? リリーちゃん」

「はい」

「それでいい。それじゃあ、行くよ!」

 僕の右腕は元々は彼女のものだった。彼女達と契約した時からそう決まっていた。

故にこの腕がある限り、例え彼女本人はいなくなっても、僕の傍にはいてくれると、そう信じているから。

「ねぇ、朝霞ちゃん?」

「何でしょう?」

「もしかしたら、キミにも何かつらい過去がったんじゃないの?」

「そうですね。では……」

 ゾワリ。そんな感覚が僕を襲った。

 ――きやがった。

 一歩ずつ彼女が僕のほうまで歩み寄ってくる。ゴクリと生唾を飲み、身構えていた僕に、朝霞ちゃんはこう言った。

「今更怯えても無駄よ? 大丈夫、痛くはしませんから。知りたいのでしょ? この私の過去を」

 カツ、カツ。そんな彼女の靴の音が響き渡る。そして、僕達のすぐ目の前まで来た時、「抱いて」と言って、その身を僕に委ねてきた。それと同時に、僕の頭の中に、

ある光景が映り込んできた。

 ――これは、


『お願い、やめてください。誰か、誰か……』


「……っ!」

 僕が見た彼女の記憶、それは、

 ――他殺。

 そう、この子は自殺でも痴漢でも事故でもなく、他殺によって命を落としたのだ。

 ――マジかよ。

 これで解りましたか? 我に返った僕に対して、朝霞ちゃんはそう訊ねてきた。僕はほんの少し、否、大きな思い違いをしていた事に腹立たしさを覚え、この子に対して一体どのように詫びればいいのだろうと思った。

「ごめんね? 変な事ばかり考えていたせいで、キミが本当はどんな気持ちだったの

かも解ってあげられなくて」

「もういいのです。それより、ねぇ錬磨さん、最後に一つだけ、私のお願いを聞いて

貰えますか?」

 そう言うと、朝霞ちゃんは僕の手を取り、「もう一度、私と共に駅のホームまで戻ってください」と言ってきた。すると、言い終わるや否や、そこは先程のあのホーム

であり、僕達五人はそれぞれ学生服に身を纏っていた。

「それで、一体キミは何がしたいの?」

「すぐに済みますよ」

 彼女がそう言ったのと同時に、ガタン、ガタン、と音を立て、物凄い速さで向こう

の方から一両の列車が走ってきた。そして扉が開き、「ありがとう錬磨さん。そして

みなさん」と言って、朝霞ちゃんはその列車の中へと姿を消していった。そして再び

ガタンガトンと音を響かせつつ、月夜の中に、その列車は消えて行った。

 ――さて、それじゃあ、

「僕達も行こうか」

 それぞれの返答を聴き、僕達も僕達でホームから改札口へ移動し、新しい舞台への

挑戦権を獲得した……。

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