第六話 第二の試練

「ここが次の舞台か」

 僕達が足を運んだのはどこかの大きな商店街、

 ――いや、違う。ここは地下鉄のホームに続いた……駄目だ、言葉が出てこない。

ともかくどこかのそこである事は間違いない。

 ――という事は、今度の担い手は駅で何か問題に巻き込まれた人物、という事か。

 リリーとメリー、そして、

「春間も、覚悟はいいね?」

 春間と言うのはあの時僕が救った女の子の名前だ。そしてその春間は今、僕と手を

繋ぎ、その舞台にいる。

 ――さて

「行くか」


「かなり広い場所のようですね? マスター」

「そうだね」

 リリーが辺りを見ながら僕にそう言ってきた。確かにいくら夢とは言え余りに広い

かもしれない。それに……、

 ――ん?

「あの子は……」

 僕達から向こう、正面に、一人の影が見えた……ような気がした。

「ねぇ三人共、今向こうのほうに誰かいなかった?」

 何気なしにそう訊ねてみたが、しかしそれぞれ応え方は違えど、共通したそれは、

それぞれがノー。という事だった。要するに、或いは本当に僕の見間違いだったのか

もしれない。という事だ。

 ――マジかよ。

 いや、何がマジかどうかはどうでもいいけど、ともかく真面目な話、この二つ目の

舞台は以前の時とは一味も二味も違う。

 ――の、かもしれない。

 そしてそのすぐ一瞬後、事態は大きく変化した。

「ねぇお兄ちゃん」

「何?」

「お姉ちゃん達、どこ?」

「え?」

 辺りを見る。確かに、どこにもあの二人はいなかった。何故急に? それも、春間だけを残して。

 ――まさか、

 何か嫌な予感がした。もしかしたら、或いはどこかに迷い込んでしまったのでは?

と思った。

 ――いや、待て、

 ここは試練の舞台。つまり、その気になればどこかの誰か――例えばアリス――があの二人を別の場所へ迷い込ませてしまった。という事も考えられる。

 ――だとすれば、

「ごめん春間、少し急ぐから早く背中に乗って!」

「うん」

 あの子達、一体どこに行ったんだ? 全力疾走でそこら中を探し回っては見たが、

どこにもあの子達の姿は見当たらなかった。

 ――何で? 何でどこにもいないんだよ?

「ねぇ春間、あの二人がどこに行ったのか、キミ、本当に知らないの?」

「うん、知らないよ?」

「……マジかよ」

 どうするよ? このままでは僕達はこの試練から無条件で脱落しなければならなく

なる。

 ――この子は元々脱落扱いで、僕には一時的とは言えパートナーがいない状態だ。

「クソッ!」

 壁に拳をぶつけ、馬鹿みたいに叫んでいる僕を見ながら、春間は、「もしかして、

またあの時みたいにどこかで担い手の人と戦ってるんじゃないの?」と言ってきた。

確かにその可能性もある。そうも思ったが、しかし、今回の舞台はこの馬鹿みたいに広い地下鉄の商店内(仮)であり、能力を持ち合わせていない僕ではただの人間にすぎない。故に……、

 ――話がループしやがる。

 そろそろ真面目に焦り始めた頃、

「あなた、さっきの人でしょ? 確か、渡良瀬錬磨君、だっけ?」

 どこからかそんな声が聴こえてきた。どうやら今度は確かなようだ。

「参加者の子だよね? どこにいるの? いるなら早く出て来てよ!」

「大丈夫、すぐ行くから」

 そこに現れたのは、そう、あの子だった。

 ――半人半ドールの、あの女の子。名前は……、

水都神利璃亜みずのみやこのかみりりあ。あの時、あなたが声を掛けてくれた

この試練、〈命の選択〉のメンバーの一人。これからよろしく。錬磨君」

「そうそう、利璃亜ちゃん……って、何で僕の考えてること、なんて今更言うまでもないか。ところで利璃亜ちゃん」

「何?」

 僕はこの舞台に来た時から今まで走り回ってきた間の事全てを彼女に伝え、意見を求めた。すると、彼女は僕にこう言った。

「あの二人のうちの一方はもしかしたら命を落としてしまうかもしれない。だから、気を付けて」

「え」

 ――リリーとメリーが、死ぬ?

「嘘でしょ? それ」

「嘘じゃない。だって……」

「お兄ちゃん、あそこ!」

 春間が唐突に大声を上げた。「どうしたの?」と声を掛けると、僕達の向こう側、

改札口の前に、一人の少女、基先程目の当たりにしたあの子の姿があった。

 ――あの子が次の担い手。そして、ここが舞台という事は、つまり、

「考えられることは三つ」

 ――一つは事故。

 ――一つは痴漢。

 ――そしてもう一つは、

「自殺」

 僕の視線が少女に突き刺さる。そして彼女もまた、僕へと視線を向け、

「……」

 ぐにゃりと口元を歪ませ、下品な笑みを浮かべていた……。

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