第五話 最初の真実
「合格だ」
泣き崩れている僕に、巴という子は言った。しかし僕の胸中では、何が合格だよ?という一言やそれ以外の文句という文句だけしかなかった。当たり前だ。ただでさえ子供一人、いや、女の子一人守れなかったというのに、何が合格だよ? と、或いは
僕以外でも同じことを思うだろう。
――何度だって言ってやるよ。
「何が合格だよ、ふざけんじゃねぇ!」
その子を一旦その場に座らせ、僕は巴を睨みつけた。
「だからこそ、この僕が、僕達が、お前を殺す!」
そう言って奴の方へと向かって行こうとした時、「やめなさい」と言って、本来の
美しい面持ちに戻っていたメリーがそう言った。「何で止めるんだよ!?」と訊ねると、続いてリリーが、「あなた様の力では、あの人には勝てません」と言って、僕を背後から抱き締めた。
「何故なら彼女もまた、この試練においてのあなた様の敵にして、敗れればそれ即ち
死を意味するからです」
何が死だ、何が敗北だ、何が、何が何が何が、
「何がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リリーの忠告を無視し、僕は奴の元へと駆けて行き、その拳をぶつけようとした。
その時、再びあの痛みが僕の身体に走った。今度は何事かと思い、何気なしにちらり
とそこへと視線を向けてみた。
――見なきゃよかった。
それでこそ、余裕で「死んだわこれ」的なものだった。
「……お前、一体何者だ?」
「言ったはず。私はこの試練において、学校の過去を担う者だと。その意味が……」
何かが腹部に押し込まれ、血が溢れ出る。思考が……、
「まだ解らないのか!」
奴は大粒の涙を零していた。唇を噛み締めており、痛みは一切感じないのだろう、ギリっと噛み破り、出血はかなりのものだった。それを目の当たりにした僕の脳内にある映像――恐らくはこの子の記憶だろう――が映り込んできた。それは先程初めて僕達が彼女と出会った時の、彼女からの紹介で説明されたその死因についてのものだった。どうやらこの子は生前は剣道が強いことで有名な名門校に通っていたらしい。
だがある日そんな彼女を妬んでいた誰かが数人がかりで真剣――所謂刀など――を
用いてこの子を殺したらしい。
――そして最終的にこの試練の担い手に選ばれてしまった。
「って訳か」
「身の程知らずの屑が」
後方から何やら暴言が聴こえてきた。誰のものかと思っていると、
「リリー、あの男は相当な愚か者だったらしいわ? だからほら」
「はい」
醜いものは大嫌いなのに。そんな事まで言われた。
――誰も、助けてくれない……あの時だって、今だって……。
「お前だって、僕と同じだろうが!」
奴の言葉の意味に気づいた訳ではない。だが、もしもこの僕の当てが正しければ、恐らくは、
「お前がこの試練を終わらせる本当の鍵。そして、」
担い手の意味、それは僕達参加者をその舞台で翻弄し、自分達を探し出させ、
「命を奪うギリギリまで追い詰める事」
それに対して、僕達は己の思考を維持しつつ、正しい答えを導き出す。であれば、僕の出す答えは、
大きく息を吸い、あのバカ二人の名を叫んだ。
「リリー、メリー!」
「あら、まだ生きていたの? あなた様ってかなりの死にぞこないなのね?」
――何とでも言え、メスガキ共。
「僕に力を貸してくれ。その代わり、もう迷わないから、キミ達の事は絶対に傷つけ
ないから!」
そして最後に、
「巴!」
彼女の名を呼び、同時にその身体を抱きしめ、僕の両手の甲に力を込めた。
「キミとはきっと、また来世で、どこかで出会える気がする。だから」
――おやすみ。
その身体が徐々に薄れていく。巴の表情には穏やかな笑みが零れていた……ように
見えたのは、或いは僕だけだろうか?
「すまないな、渡良瀬錬磨。そして、ありがとう。大好きだ……」
――僕もだよ、
「龍宮寺、巴ちゃん」
「マスター、お楽しみ中申し訳ありませんが、正面をご覧くださいませ」
巴が消え去った後、メリーが右手でそちらを示した。
「光?」
まるで門のように目映く輝く光。それが僕達の正面に広がっている。
「……行こう、三人共」
そして僕達は、また新たな試練の舞台へと足を運んだ……。
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