第一話 試練のはじまり
「……きて……起きてください……」
誰かが僕を呼んでいる。
――誰だこんな時間に?
そうおもいながらゆっくりと身体を起こし、何となくお腹の辺り感じつつよいしょ
と窓辺に手を伸ばした。目覚まし時計を手に取り、窓辺から放たれる青白灯りが指し
示す時刻は、まだ夜中の二時過ぎだった。
そしてその、僕のお腹の上に感じた重みの正体、それは1人の人物だった。
「……誰さ?」
見憶えのない、艶のある漆黒の長い髪に、まるで喪服を思わせる黒い着物と顔面の
半分に被った狐型のお面、そして失明したかのような真珠のような白さの綺麗な眼を
もつ女の子がそこにいた。
ところで、この子が果たして何者なのか? それはこの子いわく、僕にある試練を
おこなわせる為に現れた存在らしい。そしてその内容は命の選択及び、自身にとって最も大切な者を守り抜けるか。というものであり、この僕がその試練に選ばれた理由
もシンプルに、『僕に寿命がきているから』だった。ハッキリ言って、仮にも本当に
寿命が迫っているというのであれば、そこまで無理矢理受ける必要もないと思ったの
だが、それに対して、その子はこう応えた。
「あなたは輪廻転生という言葉をご存知ですか?」
「え、ああ、うん。知ってるよ? 確か、死んだ人間や動物達がこれまでの生き様によって新たな姿で来世に甦る事、だったかな? うろ憶えだから余りよくは知らないけど」
「大体はあっています。そうよ? それでいいの」
「あ?」
少女は訳の解らない事を口にすると、そろそろね。と呟き、「何も言わずに、私に付いて来てください」と言ってきた。そして僕の手を取り、暗い廊下を渡り、階段を
下りて行った。
――どこへ行く気だ?
不安と疑問が僕の中で渦巻き、口を開こうとした時にはもう既に玄関の前まで来ており、少女は僕に、「当たり前ですが、念の為靴を履いて貰えますか?」と訊ねられた。確かに何を当たり前な事を。と思いながら、言われるがままにそれに従い、再び彼女の手を取りつつ、真夜中の道路及び僕の家のすぐ前まで足を運んだ。
「それで? 今更だけど、キミはこんな真夜中に僕を呼んで何のつもりなの?」
そう訊ねると、彼女は僕にこう訊ねてきた。
「例えばですが、あなたは矛盾についてどう思いますか?」
「矛盾? そりゃまぁ……」
或いはあらゆる秩序を馬鹿にしかねないから、極力はないほうがいいとは思けれど
……、
「……それがどうしたのさ?」
「そう、ならいいわ。それでは今度こそ」
出てきなさい。どこに向けて言う訳でもなく、彼女がそう口にすると、僕達のすぐ
向こう、闇の中から二人組の可愛い女の子が現れた。
が、しかし、そんな彼女達の様子は僕のすぐ隣にいるこの子と同様にどこか変わっていた。まるでこう、人間ではないような感じで、その面持ちもあまりにも整いすぎ
ているというかなんというか、そんな感じだった。
そんな彼女達は、それぞれが白のドレスと黒のドレスを身に纏い、礼儀よく身体の前で両手を合わせた姿勢でこちらを向き、まるで僕の隣にいる――面倒なのでお面の
少女とでも呼んでおこうか――その子からの指示を待っているかのようにじっとその場に立っていた。そしてお面の少女が彼女達に対して「ご挨拶はどうしたの?」と、
訊ねたのと同時に、その子達はどちらからともなく口を開き、それぞれの自己紹介を
してくれた。
「わたくしの名はリリー。リリー・アルスフォン・デュバル。あなた様がお受けになる試練である、〈命の選択〉にて、補佐を務めさせて頂く存在にして、禁忌の十三体
《タブー》の一体でもある “穢れし純白” の異名を背負った、哀れな屍人形でございます」
「そしてこのわたくしが、メリー・アルスフォン・デュバルでございます。あなた様がお受けになる〈命の選択〉にて補佐を務めさせて頂く存在にして、禁忌の十三人形
《タブー》の一体でもある、 “耽美なる漆黒” の異名を背負った報われぬ屍人形でございます」
以後お見知り置きを。そう言って自己紹介を終えた二人はそれぞれスカートを軽く摘まみ上げ、お辞儀をしてくれた。
―― “穢れし純白” のリリーちゃん、そして “耽美なる漆黒” のメリーちゃん。
「……か」
双方へと視線を向けた僕は、ふぅっと吐息を漏らし、内心でこう思った。
――こんなに可愛い女の子が一気に三人も夢の中に現れるなんて、僕はなんて幸運
なんだろう? 何の取柄もない僕の前に現れたところで、それでこそ何の意味もない
と思うのに、果たしてこの子達は何を考えているのだろう。
「ところで、キミの名前がまだだよ?」
「……そうでしたね? それでは改めまして。こんばんは、渡良瀬錬磨。私の名前は
アリス、アリス・ド・カオス。今宵、あなたに受けて頂く試練の審判を務めさせて頂く存在にして、“千年の巫女”の異名を背負った愚かな屍人形です」
「キミ達の事は大体解った。だけどもう一つ。どうして僕がその試練を強制的にする
方向に向かっているのか、そしてどうしてこんな真夜中なのか、最後にその二つを教
えてよ?」
僕の質問に対して、アリスちゃんはこう言った。
「それでは渡良瀬錬磨、あなたのその両手の甲をご覧ください」
言われるがままにその部分へと視線を向けてみると、そこにはそれぞれ一人ずつの
少女の横顔のようなものが浮かび上がっており、それは今目の前にいる二人の少女のような白と黒の淡い輝きを放っていた。
「それが一つ目の理由です。そしてもう一つは……」
一拍程の間が開くのと同時に、僕の意識が薄れていった。そんな中で最後に目にした
もの、そして耳にしたものは、僕に向けて手を差し伸べる三人の少女と、そのうちの
一人であるアリスちゃんの、
「……」
――嘘、だろ……?
聞きたくもなかった真の目的だった……。
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