第36話 七海の提案
「少し提案があるのですが、私からもいいですか?」
「えぇ、構いません」
「でしたら、私と住原……失礼。私と【奇跡の空】が共同で一つの作品を作ります。それで手を打ってもらえませんか? そうすれば私も作品を作る事になりますので悪い話しではないかと思います。それに仮に失敗しても私が足を引っ張ったと世間の多くは見るでしょう。どうですか?」
その言葉は俺の全身に広がった震えを止めた。
部屋中の視線が白雪に向けられる。
失敗した時は白雪一人が泥を被る、遠まわしにではあるがそう言っているのだ。
成功すれば【奇跡の空】と白雪の利になる。つまりは半分っこ。
どうみても白雪一人だけが条件が悪い。
「それだと――」
鈴原さんの言葉を先回りして。
「失敗しなければ問題ありません。違いますか?」
七海は退くどころか更に一歩強気にでる。
「共作ですか……でも一人ならいざ知らず、この短期間でしっかりとした作品を二人で作るのは……」
「できますよ。私では無理でしょうけど、いつも私の作品を読み、俺だったらこうするとブツブツと本人の前で偉そうに言っている空哲君なら。そうよね? 散々人の作品にケチ付けるんだもん、それくらい朝飯前よね?」
まてまてまてまて!
俺日常生活から地雷踏んでたのか……。
しかも出来て当然って笑顔で言ってくるあたりがリアルに怖いんだけど。
確かに言ってるよ。いつも……。
でもそれとこれとは違うというか……。
「できるわけねぇだろ。そいつに――。そいつはもう俺達の世界にはいない。今のそいつを見たらわかる。もう僕達と同じ人間じゃないってことぐらい。だから白雪さん――」
「――なんでそう決めつけるの? 貴方本当に最低よ。人が立ち止まる事なんて人生数えたら沢山あるわ。それでも前に進むもうとしている人間の可能性を奪う貴方は最低よ!」
「だったら何で白雪さんはそこまで【奇跡の空】を信じられるんだい?」
「私の友達だからよ。うふふっ」
七海はそう言って俺に優しく笑いかけてくれた。
それを見た大久保さんと鈴原さんは俺と白雪を見てこう言った。
「わかった。白雪先生がそこまで言うなら私は何も言いません。それに吉野先生もこうなった以上第一枠は譲れないと思います。ですので今年は企画『この夏』の良かったと思える作品の読者アンケートを取りましょう。ネットを介してならかなりの投票数が期待できると思います。また今年は異例として全作品同じ大きさに新聞では載せます。これなら企画としては大盛りあがりが見込めるので三人の先生のご意見を聞いても宜しいですかな? ちなみに景品は来年の第一枠を用意すると参加する全先生にお約束しましょう」
その言葉に吉野の目の色が変わる。
二年連続掲載は今まで殆どの小説家ができなかった。それはその時人気のある作家、勢いのある作家、恋愛小説、ファンタジー小説を得意とする作家等毎年基準となるベースが違うからだ。これは七海から聞いたことなので間違いないのだと思う。俺はそこに偶然二年連続過去に引っかかっただけどそれを知った時は心の中でマジか!と思ってしまった。
てかホントよく俺を二年連続選んでくれたよな、大久保さん。
「面白い。その勝負僕は賛成です」
「私もそれで構いません。景品よりもそれで皆が納得するなら安い物です」
そして全員の視線が俺に向けられる。
残るは俺だけ。
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