第29話 戦いの火蓋はきって落とされた


「あら、勘が良いのね」


 声が聞こえたかと思いきや、近くにあった太い大木の影から白雪と別の大木の影から水巻が姿を見せた。


「空哲君! また本を書く気があるって本当!?」


 そのまま凄い勢いで俺に近づいて来たかと思いきや、両肩を力強く掴まれた。


「ちょっと待ちなさい!」


「なによ? 別に私が空哲君と話すのに妹の許可なんて必要ないと思うのだけど?」


「誰が、妹よ! この女狐!」


 この二人会う度にバチバチしている気がする。

 だけど二人共内心はお互いの事を認めているんだよな……だったら仲良くしてくれないかな。


「ってなんで、今話していた内容を七海が知っているんだ?」


「そんなの決まってるじゃない。全部盗み聞きしてたからに決まってるでしょ?」


「まてまてまてまてまて! それが当たり前のように言うな!」


 俺が慌ててツッコんでいると、水巻が気まずそうにして歩いて来た。

 そして「ごめん。止められなかった」とボソッと呟いて、俺に頭を下げて来た。

 

「水巻……」


「ゴメンね。最初は頑張ったんだけど、負けちゃった……」


「負けた……?」


 水巻の視線が泳ぐ。


「うん。ダメって止めてたら、七海が急に小町は私の味方よねって透き通るような声で言うもんだから仕方なく……心配でついてきたの」


「ってそれ、脅迫じゃねぇか!」


 まさかとは思ったが、まさかそのまさかだったとは。

 白雪たまに怖い時があるだよな。幸い俺にはまだそこまでないけど。


「だって仕方ないじゃない。二人が急にどこかに行ったんだから……」


 いや、仲間はずれにされたみたいな悲しそうな声と表情で言われても困る。

 だってなんか可愛いし、こう素直だなーって思ってしまうんだもん。


「なんか二人が仲良しなのは嫌なんだって……。まぁ七海も女の子だし」


「って、なに普通にバラしているのよ!」


 水巻の言葉に顔を赤くして、叫ぶ白雪。


「え? ダメなの?」


 急にとぼける水巻。


「あ、当たり前よ!」


「意地悪された私にだって少しぐらい自由があってもいいと思う。少なくとも住原君は優しくて包容力がある女の子の方が好きだと思うよ? そうだよね、住原君?」


「あ、うん……」


 なんで俺普通に返事をしているんだ。

 よく見れば、水巻が舌を出して目が笑っている。

 つまり、良いように利用されたってことか。

 対して白雪は俺と水巻を交互に見て葛藤しているように見える。

 そして俺の近くに来たかと思いきや、俺の背中に隠れて水巻を睨みつける。


「この、裏切者!」


 なんか学校とのギャップが大きすぎて正直嬉しい反面少し戸惑ってしまった。

 もしかして、こっちが本当の白雪だったりしてな。


「とにかく水巻も俺を使うのは止めてくれ」


「は~い」


 てっきり小言の一つや二つ言ってくると思ったが水巻は素直に認めた。

 若干違和感を感じる返事だったが、ここで口喧嘩をするつもりはないらしい。


「なんだ、皆ここにいたんだ」


 すると突然聞こえてきた声に育枝が反応し、手を大きく振る。


「あっ、亜由美ー! こっち、こっち」


 すると今度は白雪と水巻とは違う方向から幼馴染姉妹である琴音と亜由美が歩いてくる。

 どうやら二人も外の空気を吸いに外に出てきたらしい。


「皆で何してたの?」


 亜由美の質問に育枝が答えようとしたとき。


「どうせくうちゃんがいくちゃんの前で七海とイチャイチャしてたとかでしょ?」


 と琴音が口元を手で隠して言ってきたもんだから、つい。


「いつもいつも俺が悪いみたいな言い方するな! この性悪女!」


 とつい言ってしまった。育枝と白雪に誤解されたくないがために必死な俺を見て琴音が不敵な笑みを浮かべる。


「あれれ~、そんなに元気になったって事は二人となんかあったのかな?」


「なんもない!」


「慌てているようにも見えなくもないけど、本当はエッチなハプニングの五個や六個あったんじゃないの~?」


「一個や二個もない。てか五個や六個って流石に多すぎだろ!」


「え? それくらいあった方がくうちゃん的には嬉しいじゃん」


「あのなぁ……そんな幸福イベントが現実問題起きるわけないだろ」


 って俺今何言ってるんだ。

 そして良いようにからかわれて、余計なことを言わされた琴音に俺が反撃の狼煙を上げる。それはもう元気が良い男女が相手を陥れる為に全力で。

 それを見た育枝と亜由美は椅子に座って白雪と水巻に言う。


「二人共、しばらく座って待った方がいいと思いますよ」


「ったく。お姉ちゃん誰が闘争心でくうにぃを元気づけようとしているのよ。すみません、お姉ちゃんが本当にアホで」


 もう慣れたと言わんばかりの言葉に二人が戸惑う。


「え? 止めなくていいの?」


 流石の白雪もこれには戸惑いを隠せないのか育枝に言う。


「うん。そのうち収まるし、慣れると思うよ?」


「本気?」


「当たり前」


 平然とした態度と声で答える育枝に、今度は水巻が質問する。


「これ、二人の時みたいに大きな喧嘩にならない?」


「なりません」


「なりませんよ」


 育枝と亜由美はハッキリとそう告げる。

 それから言い争いをする二人を見守りながら四人が会話を始めた。


 ――それから、十分後。


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