第23話 準備完了!?
翌日、俺は育枝に朝の八時に起こされた。その後、育枝はまだ身支度が終わっていないらしく「そらにぃおはよう。大好きだよ!」と言って自分の部屋へと戻っていった。
その時の育枝の笑みがとても可愛いくて、ドキッとしてしまった。朝からいい意味で心臓に悪い。だけど、それと同時に今まで感じなかった感情が生まれたのも事実。どんな感情かというと、これは兄妹として? それとも異性としてなのか? はたまたそのどちらでもなくただ気付けば口癖のように言っているだけなのか? という感情である。その為、俺は今までみたく素直に喜ぶことができなかった。
俺はいつもなら水で濡らしてタオルで髪の毛を濡らす事で終わらせる寝癖直しを考え事をしていた為か、無意識にドライヤーを使い乾かして更にはワックスを付けてビシッと朝から身だしなみを整えていた。
「はっ! しまった……」
そう俺はなんだかんだ言って今日を楽しみにしている。
だって女の子に囲まれて旅行なんて、夢みたいじゃないか!
それに皆なんだかんだ優しいし、容姿は良い。平凡な俺と比べ……じゃなくてこんな何のとりえもない俺にも優しく接してくれる女子達。気分がのらないわけがないのだ。
正直なところ悩みはある。
だけどそれとこれは別と言うか、悩みよりも楽しみな気持ちの方が大きい。
「良し! こんなものだろ」
俺は鏡に映った自分を見て頷いてから、リビングに行きいつもなら流れ作業のようにお腹に詰め込むだけのパンをソファーに座って味わいながら食べた。
やっぱり気になるのだ。育枝は演技だと言っていたが、亜由美と琴音はそこに違和感を覚えていた。そして今朝亜由美から来ていたメールにはこう書かれていた。
『昨日お姉ちゃんから聞いたよ。後で私も話したい事があるから何処かで時間を作ろうね』
『話したいこと?』
『うん』
『わかった』
そもそも考えすぎなのか?
この状況は状況で俺にとってマイナス面はない。あるとすればあの時の気持ちがしっかりと伝わらなかった悔しさぐらいだ。だけどそれを除けば俺にとってはむしろいい展開になっている気がするのだ。今までは育枝や白雪にとっていい展開に動いていたのだと俺は思っている。理由は恋心を抜きに考えれば、二人にとっては俺――【奇跡の空】が復活する兆しが見えてきたからだ。二人は間違いなく【奇跡の空】の復活を願っている。それは今までの二人の様子や態度を見ていたらなんとなくわかる。だけどまだ完全には復活していない。まぁそこは正直後は時間の問題と言えば時間の問題だし、俺が書きたいと思える環境が今後あるか等も関わって来るのでどうなるかはハッキリとは言えないわけだが。
『朝いくから何か言われたりした?』
『別に。いつも通り少し前と同じように『そらにぃ大好き』とは言ってくれた』
『なるほど。やっぱりそうなるのか』
『どうゆう意味?』
『二人が気まずい関係になる前まで戻るんだなってこと。とりあえずなら後は合流してから話そう。私まだ朝の準備終わってないから』
『わかった』
確かに。凄いいい感じに戻った気がする。例えるならタイムマシーンにのって人間関係のいい所どりをして今を生きていると言ったらいいのかもしれない。よくない所だけをいい物に置き換えたそんな感じだ。だけど筋は通っているのだ。なぜなら育枝は最初俺に偽物の恋人になると言ってくれた。なのに俺はいつからかあの日白雪に告白する前に別れた、つまりこれで偽物の恋人と言う演技は終わったのだと思った。だけど育枝の中では昨日までが演技だった。そう考えると、実は俺の勘違いが全部原因な気がしてきた――だけど。
幾ら偽物の恋人同士だったとは言え、あそこまでされたら流石に心が揺れ動いてしまうのも事実。そして育枝の中では今まで通りに戻っただけかもしれない。だけど俺の中では育枝に対する見方が大きく変わり、育枝に対する気持ちも変化している。だから全部を全部今まで通りと言われてもなんか納得が出来ない。
「う~ん、もしかして俺が全部悪いのか……」
俺は腕を組んで自問自答してみる。
ダメだ。
答えがでない。
今俺が育枝に対する感情はある意味カオス。
信頼、信用、義理の妹、可愛い妹、小悪魔、可愛い女の子、惹かれる想い――不安。
最後に来る感情、これが一番プレッシャーでしかなかった。
目に見えないからこそ恐ろしくて、今度は本当にやらかしてしまうかもと思うととても怖い。だって絶対の自信を持っていた物が違ったんだ。つまり他にも大丈夫だと思っている事も本当は違っている可能性だってあるんだ。
あー、もう!
俺はこれから一体どうしたらいいんだろうか。本当に今まで通り接していいのか。だとしても俺は演技をする前とした後では心情が違う。果たして本当に今まで通り関われるのだろうか……。多分無理だ。人間の心は数字で言う〇と一の世界じゃない。数字では表わすことができない物だ。それは最新のAIでも同じだと思う。あれは人間に似せて作られた物で人間の心を持っていない。あくまで類似した物。つまり俺の心はそんなに簡単じゃないってことだ。
部屋にある時計に目を向けると――八時五十三分。
ピンポーン!
玄関のチャイムが鳴った。
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