第12話 拒絶反応


 それからすぐに亜由美がトレーに乗せてお昼ご飯持ってきてくれた。

 目の前にある四角いテーブルの上に差し出されたお昼ご飯はとても美味しそうだった。


 白米と味噌汁、それから黄色い沢庵の漬物とハンバーグだった。


 これは見ただけでわかる、美味しい奴だ。

 ハンバーグのジューシーな匂いが俺の鼻孔をくすぐる。

(これを食べていいのか……)

 俺は亜由美の顔を見る。

(てか亜由美俺に対して気前良過ぎだろ!)

 なんてタイミングでこんな物を見せつけてくるんだ。これでは昨日からまともに食事ができていなかった俺の身体がこれでもかと思うほどに喜んでしまうではないか! たまらん! 早く食べてぇ!


「食べていいのか?」


「いいよ」


 俺は早速箸を手に取り、手を合わせる。


「いただきます」


「は~い」


 俺はさっそく白い湯気が見える肉厚ハンバーグを箸で一口サイズに切ってみる。

 するとすぐにハンバーグが割れ、中から肉汁がその姿を見せる。そしてそのまま口に放り込む。すると口の中で肉汁がこれでもかと言うばかりに肉の中から弾け飛び口の中で広がり始める。更にただでさえ良かった匂いが更に口の中で広がり俺の鼻孔を刺激する。これはたまらん。


「うまい!」


 俺の味覚がその美味しさを感じ取り、嗅覚が白米、味噌汁、ハンバーグの匂いを感じ取る。


「わざわざ作ってくれたのか? マジでうまい! ありがとうな、亜由美」


「うん。それは良かった」


 今度はハンバーグを口に入れて、すぐに白米を食べる。

 ヤバイ……。

 これはこれでめっちゃ美味しいぞ!

 俺が勢いよくご飯を食べる姿を隣で見ながら亜由美が言う。


「それ、そんなに美味しい?」


 俺は即答する。


「当たり前だろ」


「ちなみにそれ私が作ったハンバーグなんだよ」


「これは才能だな。料理が出来る女の子ってのは男子からしたら結構ポイント高いし将来有能だな」


 すると亜由美は照れているのか、少し顔を赤くした。

 それからしばらく俺が食べる姿を微笑みながら見守る。

 気分が落ちこみちゃんとしたご飯をしっかりと食べていなかっただけに、料理がいつも以上に美味しく感じる。もしかしたら亜由美の手料理って言う所がポイントで俺だけの特別扱いと思っているからなのかもしれない。


「にしてもよく数分でこれだけの料理を作れたな。どうやって作ったんだ?」


「知りたい?」


「うん」


「それ昨日の夕飯の残りをレンジで温めただけなんだけだから」


 そうゆう事か。

 道理で部屋を出て戻って来るまでが早かったわけだ。

 だけど腹が減っている俺の手が止まる事はなく、そのまま一気にがっついて食べ続ける。


「誰も取ったりしないからゆっくり食べたらいいのに。それにそんな食べ方してたら――」


 ゴホゴホッ!?


「ほら人が言おうとした矢先になってるじゃない」


 つい勢い余り、ご飯が喉の奥で詰まってしまった。

 胸を叩いて苦しむ俺を見て亜由美は手を伸ばして俺の近くにあった水が入ったコップを差し出してくれる。

 俺はすぐにそれを受け取り流し込む。


「はぁ~死ぬかと思った」


「ったく、くうにぃなにしてるのよ」


「いや……つい美味しくてな」


 俺は年下にカッコ悪い姿を見られた恥ずかしさのあまりそれを隠すようにして残りのご飯を食べる。


「まぁいいけど。それにしてもネット上では未だに期待されているんだね」


 亜由美はスマートフォンを見ながらそう言ってきた。

 確かに期待されていないかと言われれば期待はされていると思う。

 なんたって作品の履歴を見ればわかるのだか、今でも俺が書いた作品に一日二、三千人ぐらいの読者が来てくれている。これは非常に喜ばしい事で有り難いことでもある。なぜならWeb小説と言うのは更新されなくなればわざわざ読みに来てくれる人が減る世界だと俺は思っている。理由は簡単で一日何十、何百、下手したらそれ以上の新作が毎日生まれる世界で古い作品になればなるほど人は離れていきやすい。当然有名な作品や知名度、人気がある作品は例外ではあるがそんな作品は少数だ。

 俺は育枝に振られてからそこまで気が回っていない為、確認こそはしていないが、SNSで大きく名前を取り上げられていると言う事を考えれば多分だけど昔ファンだった人達もまた俺の復帰を期待して久しぶりに作品を読みに来てくれている気がした。

 何が言いたいかと言うと、俺が【奇跡の空】として活動を再開すれば間違いなくある程度の人数の集客は出来る。つまりそこから人に感動を与え心を動かす事ができれば読者が読者を呼んでくれる構図が上手く構築され俺はあの日失った最強の矛と自信を再び手にすることができるかもしれないと言う事だ。まぁ簡単な話しではないことは百も承知なわけだが、上手く行けば白雪と同じ様に自分でお金を稼ぐ事だってできるようになる。そうすれば家族に楽をさせてあげられるかもしれない。そう言った意味ではWeb小説家をしながらまずはそれを収益化させてプロを目指すってのもありかもしれない。


「それは否定しないかな」


「ふ~ん。てか今更なんだけど前より拒絶反応なくなってるよね?」


 幼馴染である琴音と亜由美は俺が昔Web小説を書いていた頃の話しを基本的にはしてこない。仮にするにしてもその時の状況に合わせて必要最低限サラッと少し触れるぐらいだ。それは俺の過去の経験とそれを俺が言ったらどうなるかを正しく理解してくれているからだ。


「まぁな。色々あってな」


「何があったの?」


「うん――」


「えー、今来るの――」


 亜由美は急に俺から視線を外し、更に俺の背後へと視線を向け、『ドアちゃんと閉めとけばよかった……』とポツリと呟いた。

 まぁ琴音だったら聞かれても――


「義妹がずっと隣で見守って、励ましてあげてたのよ」


 その声に俺は、ビクッ! とつい反応してしまった。

 俺が後ろを振り返ると、そこには金色のロングヘアーよく似合い学生でありながらプロの小説家として活躍する白雪がいた。

 そのすぐ後ろに水巻と琴音が見守るようにして立っていた。

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