第11話 亜由美の初恋
(でもまぁ亜由美になら話してもいいかもしれない)
このまま白雪とも育枝とも気まずい関係ってのは正直嫌だ。
かと言って俺一人で全部解決できるかと言えばそんなに俺は器用ではない。
だったら誰かに手助けをしてもらうのも有りなのだが、これは俺の問題。
俺が自分でやっぱり何とかした方がいい気も昨日からしてならない。
――あ~どうしよー。
「ちなみに私の初恋はまだ続いてるよ」
「え? 好きな人いたの?」
「うん」
「でもどうして初恋といくが好きな事が関係あるんだ?」
「だって春休み連絡取ってた時に自分で言ってたじゃん。『俺好きな人とか出来たことないけど高校生になったんだし育枝には好きな人が出来て幸せになって欲しい』ってほら!」
そう言って俺にスマートフォンの画面を見せつけてくる。
そこには俺とのSNSの内容が表示されており、確かに俺が亜由美に当時送った物だった。
俺本当に自分で墓穴しか掘ってないような気がする。
「だから初恋の相手って特別な事もわかってる。他に好きな人が出来ても中々忘れない事も。ただくうにぃの場合もし違ったらスパンがかなり短い気がするなって思って」
――グサッ!
頼む。
今は優しくデリケートに俺を扱ってくれ。
でないとまたマジで昨日みたいに病む。
「私も初恋の人を忘れて一時的に他の人を好きになったよ。だけどその新しく好きになった人に告白をされた時にね、あっ何か違うって思ったんだ。そして私の場合は初恋の人が最後の最後で勝っちゃったの。だからいくが初恋の相手だったらそれはそれである意味義妹から始まる運命? だったりして、とか思ってるわけですよ」
もしかしたら亜由美と同じように俺が告白した瞬間に育枝もそんな風に思ったのかもしれない。育枝と亜由美は別人。だけど今その可能性が強いのではと思ってしまった。そして何故かそう考えると振られた理由に納得できた。って事は俺にもう脈はないのか。
ヤバイ……。
泣きそう。
「私が力になってあげる。いくと仲直りしたんでしょ?」
「うん」
「なら手伝ってあげる。とは言っても基本は何もしない。ただ必要に応じてたまに手を貸してあげるだけ。それだったら二人も納得できると思う。だからまずは話せる範囲で事情を教えて」
亜由美は俺に気を遣ってくれているのか話せる範囲で良いと言ってくれ、更には必要最小限しか力は貸さないから俺が育枝と向き合う環境までしっかりと残してくれる形で言ってきた。
だから。
「初恋は違う。その学校一の美女って言われてる白雪七海って人……」
俺はその言葉に心を許してしまった。
必死になって泣くのを堪えている俺に誤魔化す余裕は最早なかった。
「くうにぃ?」
亜由美は俺の方にしっかりと身体の向きを変えて俺の顔を両手で上にあげる。
「ん?」
「何でいくが今私とも連絡を取らないかよくわかった気がする」
「それは一体?」
亜由美はそのまま俺のオデコに優しくデコピンをする。
「いたっ!?」
「女心は複雑なんだよ。特にいくの場合たまに一時の感情に支配されちゃう時があるよね。それで後悔しやすいタイプだからちゃんと向き合えば仲直り出来ると思うけど、くうにぃはいくと向き合わないの?」
簡単に向き合うというが、俺は振られたんだ。
今更どうゆう顔をして育枝に会い、話しかけていいのかが今は正直わからない。
だから悩んでいるわけで。
「てかそうなの?」
「……ん~これはお兄ちゃん失格だね」
そう言うと亜由美は立ち上がって笑顔で言う。
「とりあえずお昼ご飯にしよっか。私持ってくるね」
そのまま亜由美は部屋の扉を開けて一階にあるリビングへと向かう為、部屋を出て行く。
「てか、いくの好きな人って昔から……。それに超が付く程、あの子一途……って普通何も言われなくても一緒に暮らしていたら気付くと思うけど……違うか。一緒に暮らしているからあれが当たり前になって気付いていないのか……かと言った所で傷ついた心は癒えないだろうし、下手したらくうにぃが女性不信になりそうだし……困ったな……」
亜由美は俺をチラっと見て小さい声で何かぶつぶつ言いながら離れて行くが、声が小さ過ぎて俺の耳には何て言っているかわからなかった。
そのまま部屋から出て階段を降りて行く亜由美を見送った俺は大人しく待つことにした。考えて見れば朝からバタバタしており、朝ごはんを食べていない俺は空腹状態となっていた。この後の事を考えるのは、まず腹を満たしてからでもいいだろう。腹が減っては戦もできぬとはよく言うしな。
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