第6話 育枝の後悔 1
ベッドの上でぼんやりと天井を見つめていた育枝は、窓から会話しているであろう空哲、琴音、亜由美の会話を何となく聞いていた。
本当は今すぐにでも空哲を慰めに行きたかった。
だけどあの落ち込み具合から察するに初恋の失恋と育枝の嘘がかなり効いているように見えなくもない。会話が終わり静かになったのか何も聞こえなくなると、育枝はベッドから起き上がり頭を両手でかきむしる。綺麗な髪が一瞬でボサボサになるが、今は正直それどころではなかった。
「マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、……このままじゃ私嫌われちゃう。どうしよ……。好感度を上げる為にあの手この手を使ったけど……このままじゃ全部失敗に終わっちゃう……。あの水巻って先輩私とそらにぃが復縁した時のプラン絶対に考えてる。このままじゃ私本当にそらにぃを取られちゃう……」
今すぐ窓を開けて、琴音か亜由美に相談を聞いて欲しいところではあるが、事情が事情なだけに中々話せない。
「もう私のバカ! あの時、一瞬の気の迷いとは言え白雪七海に思いっきり後悔させてその姿を皆に見せてやりたいと思ったせいだ。そしてその時にこれは更なるチャンスと欲を出したせいだ……。てかそらにぃ好きなら好きってもっと早く言ってよ! そしたら私絶対に彼女になれたのに……。てかもうそらにぃにどんな顔をして会えばいいかわからないよ……」
育枝は枕を両手で持ちブンブンと振り回して、心の中に溜まった鬱憤を全て枕と布団へ向ける。
もう怒りたいのか、泣きたいのか、慰めて欲しいのか、自分でもわからない。
ただ一つわかるのは、本来であれば育枝の完全勝利で終わっていたはずなのにそれを邪魔した人間がいると言う事だ。その人間――水巻小町である。
「あぁー、もうそらにぃ抱きしめてよ、安心させてよ……。違う、あぁーーーーーーこんな愛に重たい私を殺してーーー、あぁもういっその事、死にたい、死にたい、死にたい、死にたいっ!」
もはや自分の身体と感情の制御が効かなくなり始めた育枝は今度は近くにある抱き枕を思いっきり力一杯抱きしめて、少しでも安心感を得ようとする。
「あの状況で振った……それでいてアフターケアが出来ていないこの状況はマイナスでしかない。マズイ……私の精神が不安定過ぎてどうしていいか……あぁそうじゃない! なんで大好きなそらにぃをあの時振ったのよ私! バカなの! ったく何がしたいのよ! だからいつも後先考えて計算してから動けてって言ってるじゃないのよ!」
だがやってしまったのはもうどうしようも出来ない。
そんな事は誰かに言われなくてもわかっている。だからこそ心が不安定になる。
「……はぁ。やり過ぎちゃった」
育枝は目から涙をポロポロと流しながら、反省する。
感情のコントロールはかなり難しい。
昔、恋心一つで国が滅びたことだってある。それを考えればただの女子高生、それも少し前まで中学生だった女の子が完璧に恋心を制御するのは到底無理だと言えよう。
――ずっと大好きだった。
三年間ずっと振り向いて欲しかった。だけど毎日どこかすれ違う二人。
そんな関係に育枝は嫌気がさしていた。
なんでこんなにも大好きなのに私の想いに全然気付いてくれないのかと。
そんな時だった。
いきなり好きな人が出来た――それも初恋。
そんな事を言われたら、そらにぃにそのつもりがなくても私がどれだけ傷ついたか当然本人は知らない。だって言ってないしそんな素振りは見せてないから。
しかも初恋の相手が学校一の美女――白雪七海。
普通に考えて相手が悪すぎた。
だからこの状況は泣きたいくらい辛いけど、何とかそらにぃの幸せを願いつつも最後はそらにぃに決めて貰う形で初恋の協力をする変わりに自分にもフィフティフィフティで良かったから可能性が残るように頑張ってみた。あくまで最後に決めるのはそらにぃ。だけど白雪七海を最後選べる選択肢は本当は嫌だけどしっかりと残してあげた。でないとそらにぃが幸せになれないと思ったから。
そしてあの時、勝利を確信した。
その時やっとこの恋が実ったと思うとつい気が緩んでしまった。そのせいで本当は『はい!』って素直に答えようと思っていたのに欲を出してしまった。
その結果がこれだ。
今から『やっぱり好きだから付き合って?』と言ってもそらにぃがそれを受け入れてくれる保障なんてどこにもない。
むしろ振られる可能性の方が今は高いように思える。
「うぅぅぅぅぅぅ。ごめんなさい、そらにぃ嘘ついて、ごめんなちゃい……うぅぅ」
鼻をグズグズさせて、後悔する育枝。
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後書き
とりあえず九月は毎日更新でいけると思います。
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