第7話 育枝の後悔 2

前書き


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 誰がどう見てもあれは見間違いようがない事実。

 インパクトが大きすぎる為に、下手に動くことすら出来なくなってしまった。


「完全に後手に回った……どうしよ……」


 育枝は部屋にあるカレンダーに目を向ける。

 今日は四月二十七日でGW一日目。

 唯一の救いはまだ時間があると言う事だ。

 今のまま学校には行きたくない。そう今のままはマズいのだ。

 このままでは空哲と白雪七海の事が気になって勉強どころではなくなってしまうからだ。


「……そらにぃ、男だったら強引にでも私を彼女にしてよ……。なんならファーストキス奪ってよ……あぁ……バカすぎる女だよね……わたし」


 部屋にしばしの静寂が訪れる。

 育枝は空哲が告白してくれた時の光景を頭の中で思い返してみた。

 そして落ち込み沈んだ育枝にある感情が芽生える。


 それは――。



 嫉妬に似た純粋な怒りだった。



「そもそもあの女狐だ。あの女狐が正々堂々と戦っていれば……」


 一回突き放しておきながら、空哲だけにはしっかりと隙を見せ、あろうことか自ら接点を作りに来る女。その癖、自信がないのか外部に助けを求めて幾つにも張り巡らされた保険の数々。例えクラス全員の男子を敵に回しても構わないような態度をとり、育枝の目を完全に自分に向けて置きながら、更にその裏でも水巻と言う友人を使い攻めきた策略女。あの時『住原空哲は異性としては好きではないわ』と言われた瞬間、私はイラっとしてしまった。そしてあろうことか必要以上に後悔させてやると思ってしまった。

 結果、今は立場が逆転し白雪七海に対してかなり有利な状況となっている。

 私は告白を断り今は気まずい関係になっていて水巻小町がまだ何か仕掛けているかもしれないと考えられる以上迂闊にアプローチすら出来ない。だが白雪七海は少し前の自分と同じく『そらにぃに大好き』だと想いを伝えている。現状この状況で白雪七海がそらにぃに優しい言葉を掛けたり積極的な行動を取れば心が落ち込んでいるそらにぃには効果抜群なのは約一か月前育枝が実証済みである。

 そうなるとすぐにこちらは現状維持をしつつ様子を見て関係修復、更には白雪七海と水巻小町の攻撃全てから、そらにぃを守らなければならない。


 ましてや今のそらにぃは【奇跡の空】でもある。


 今までとは違い、自分の感情に素直になっている。

 そこに琴音と亜由美の帰宅、懸念材料とされる物が増える一方だった。

 亜由美はともかく琴音はあの水巻小町とかなり仲が良いことだけは知っている。

 だから相談なんてそもそもできないわけで。

 育枝は突き付けられた現実に頭を抱えた。


「このままじゃ私負ける……どうしたらいいの……」


 たった一つのミスがここまで取り返しのつかない事になるとは思いにもよらなかった。

 そもそも原因の根本は自分にあるとわかっていても、ここまでくると恋愛の神様に文句の一つも言いたくなる。


「ううん、まだ負けてない……逆転の道は必ずある……」


 育枝の好きな作家がよく言う言葉にこんな言葉がある。


 ――出会いは必然であって偶然ではない


 もしそうならこれは運命によって決められた事。

 そうこれは育枝に与えられた試練の一つに過ぎないのだ。


 育枝は自分を鼓舞する。

 そしてスマートフォンの待ち受けにしている空哲とのツーショット写真を見て宣言する。


「そらにぃの事これからも一生大好きだから、私! だから……絶対に勝ってみせるよ!」


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