西条ルート 1

※11-9分岐。浅葱が野上の告白を断った設定。


 

 西条の部屋の掃除を手伝った翌日。西条の母である美枝さんと近くの公園に立ち寄った。

親らしい西条の素行に関して俺に訊いた後、美枝さんの表情に真剣さが増す。


「あなたはかえでのこと、どう思ってますか?」

「え?」


 不意打ちの質問だった。

 どう思っているか、と問われると、急に西条の存在を強く意識してしまう。

 熱心に考え始めると、美枝さんは苦笑いを見せた。


「真剣に考えなくてもいいのよ。これまでと同じように親しくしていただければ」

「親しく、ですか」

「あなたの方からかえでとの関係を深くしたいというなら、話は別ですけど」

「関係を深めるって、もしかして?」

「私は反対しませんよ」


 反対しない。

 ということは、俺が彼氏となっても受け入れてくれるのだろう。

 野上から好意を伝えられたが、西条と遊ぶ約束を思い出して断った。

 その時に受け入れていたら彼女がいたわけだが、生憎いない。


 なので仮定として、西条と恋人同士になった自分を想像してみる。 

 ――悪い気はしない。むしろ西条が彼女だったら楽しいだろうなと思った。


「なれるなら、そうなりたいですね」


 つい口に出していた。

 美枝さんは静かに返答を受取り、照れたように微笑んだ。


「そうなんですね。とはいえ、かえでのことで母親の私がどうこう言える立場にはありませんけど。かえで本人の気持ちを聞いたわけではないですから」


 そりゃそうだ。

 俺は何を先走って想像していたんだろう。

 自分の想像に赤面しかねないほどの恥ずかしさで黙っていると、美枝さんは俺の顔を静かな微笑でじっと見つめてきた。

 なんだ?


「かえではああ見えて内気なところがありますから」

「突然、何を?」


 しかし美枝さんは俺の疑問には答えず、静かな微笑で言葉を続ける。


「かえでは浅葱さんのことを特別視してますよ」

「……それって?」


 俺のことを好きってことですか、と続けようとしたところで、美枝さんはおもむろにベンチから立ち上がった。

 俺に顔を振り向け、掴みどころのない微笑を浮かべる。


「浅葱さんはかえでのこと好きですか?」

「……」


 好きと言えたら潔いだろう。

 けど、いざ口にするとなると凄く照れる。


「顔、赤いですよ」

「あっ、えっ、あはは」


 俺が苦笑すると、美枝さんは途端にニヤリと口角を跳ね上げた。

 西条が時々見せる意地の悪い笑みにとても似ている。


「告白しないのですか?」

「ああ、ええと……」

「かえでを幸せにしてあげてくださいね」

「まだ告白するなんて……」

「しないのですか?」

「しないってことはないですけど」

「してあげてください。というか、しろ」

「……」


 美枝さんって、もしかして今のが本性?

 やっぱ親子なんだな。


「大丈夫ですよ。成功しますから」

「……成功するかどうかなんて、そんなのわかんないですよ」

「かえでのこと、好きなんですよね?」

「そうですけど」


 話の流れで肯定してしまった。

 まあ、好きなのは違いないけど。


「フラれるのが恐いですか?」

「そりゃそうですよ。それに告白した後元の関係には戻れない気がしますし」

「女の子の片思いって長くて一年ですよ」

「……マジっすか?」


 その情報は初耳だ。

 長くて一年となれば、もっと早く冷める場合もあるわけだ。


「それでは、かえでが待ってますから戻りましょう」


 唐突に告げて、美枝さんは公園の出口を歩き出す。


「ちょ、待ってください」


 告白するかしないか天秤にかけたまま、俺は美枝さんの後に続いてベンチから立ちあがった。

 ふと視界に入った空は、東の方には晴れ間が覗いていた。

 夕方にかけて曇る、という天気予報だったが、どうやら予報は外れそうだ。

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