9章 公私どちらだとしても俺は満更でもない
9-1
年末年始を実家で家族と過ごして、一月三日の今日一週間ぶりにマンションに戻ってきた。
一週間分の荷物と親戚などに押し付けられた地元の土産を整理していると、不意にテーブルに置いてある携帯が鳴った。
荷物から離れてテーブルの携帯を手に取り、発信者の名を見る。
錦馬からだ。
通話ボタンを選択して電話に出る。
『もしもし浅葱です』
『今どこ?』
電話の礼儀として一応名乗ったのに、錦馬の方はいきなり所在を尋ねてきた。
通話相手をわからせるために、私だけど、ぐらいは返して欲しいものだ。
『……マンションだけど』
『帰ってきてたのね』
『ああ、つい数時間前にな』
年明けに新年の挨拶も電話越しながら交わしたし、その時に急用はないと言っていてもいた。
何用で電話をかけてきたんだ?
『私、一週間暇してたの』
唐突に言われても。だからなんだ、としか返しようがない。
返事に困っていると、錦馬はあちらで衣擦れのような音をさせた。
『私、一週間暇してたの』
『同じこと二回言うなよ』
『大事なことだから』
『なぜだ?』
『……なんとなくよ』
大事なこと、つっただろ。
『なんとなくで電話をかけてくるな』
『いいじゃない、私は一週間暇してたの』
『暇だから、なんなんだよ?』
さっきから暇、暇、と主張して、錦馬は俺に何を伝えたいんだ?
『……付き合いなさい』
前触れもなく言われた。
自分でもポカンとしているのわかる。
『付き合うって何に?』
『遊園地よ』
遊園地ね。イベントでも入っていただろうか?
スマホのスケジュール帳を開いてみる。
遊園地の文字はない。
『錦馬。遊園地での仕事なんて入ってないぞ』
『仕事じゃないわよ!』
怒られた。
『仕事じゃないなら、どうして遊園地へ行くのに俺を付き合わせるんだ。プライベートなら野上と行けばいいだろ』
『だって、優香がまだ帰ってきてないのよ』
駄々をこねるみたいな口調が電話口から流れた。
錦馬のこんな声、初めて聞いた。
『それに優香じゃ誘いづらいのよ』
後付けのように言う。
『どうしてだ?』
『理由なんてどうでもいいじゃない。とりあえず一緒に遊園地に行きましょ』
本題に戻って、押し切ろうとしてくる。
『どうでもよくはないぞ。喧嘩したっていうなら心配だしな』
『喧嘩なんてしてないわよ』
「じゃあ、どうして誘いづらいんだよ。優香が帰ってくるまで待って誘えばいいだろ」
『優香だと示しがつかなくなるのよ。でも、あんただったら許してくれそうだから、それに相談したいことがあるから』
許すとか許さない、とかは正直よくわからないが、相談したいことがある、というからには事情があるのだろう。
『相談したいことっていうのは、電話じゃダメなのか?』
『大事な話だから、直接がいい』
そう言う錦馬の声は真剣だ。
遊園地である必要性はないだろうが、要するに他人に干渉されにくい場所を選んだのだろう。
『それで付き合ってくれるの?』
『話があるなら付き合うほかないだろ』
相談に乗るのもマネージャーの仕事。
自分に言い聞かして、荷物の整理があるから、とひとまず電話を切った。
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