8章 クリスマスに予定のない人って意外と多いのかもしれない

8-1

 フラッシュモブに参加したのがつい最近のように思っていたが、月日が過ぎるのは早いことで十二月も中旬になっていた。


 事務所で次の撮影の打ち合わせを済ました俺は、受付で帰ることを伝えようとしたところ、受付係の女性に呼び止められた。


「浅葱さん。社長が部屋でお呼びですよ」

「どんな用件か聞いてますか?」

「まあ、おそらくはあれかと」


 受付係は苦笑交じりにそう答えた。


 あれ、とはなんだろう?


 その疑問は直接伺えばわかることだと、受付には訊き返さずに錦馬に少しだけ待ってくれるように頼んでから社長室へ向かった。



 社長室に入ると、社長はマホガニーの机の上でパソコンのキーボードを熱心に打ち込んでいた。


「ああ、来たね浅葱君」

 俺に気が付いてパソコンの画面から顔を上げると、スチール机を緩く指さす。

「適当なところ座っといて」

「はい」


 近況でも訊かれるのだろうか。

 社長に呼び出された理由がわからず、俺は手近な席に腰かけた。

 それから少しすると社長はキーボードから手を退けて席を立ち、俺の真向かいのパイプ椅子にゆったりと移動してきた。

 俺は背筋を正す。


「楽にしてていいよ」


 そう言って、社長は間の抜けた笑みを浮かべた。

 楽にしてていいよ、と言われても、社長の下で働く立場上あからさまに楽な姿勢はできない。

 社長が間の抜けた笑みのまま切り出す。


「浅葱君はクリスマスの日は暇?」

「二四日と二五日ですよね。仕事は入ってませんよ」


 暇? と訊かれて正直に頷くのは癪なので回りくどく答えた。まあ、特別やることがあるわけじゃないけど。


「それじゃ、パーティーに出席して欲しい」

「パーティー? いわゆるクリスマスパーティーってことですか?」

「そう。事務所で予定のない人達が集まってするだけど、ぜひとも出席しない?」


 招待は嬉しいが、事務所規模で開くクリスマスパーティーとはどんなものだろか。家族や友人とは訳が違うだろう。


「服装などはどのようにすれば?」

「ドレスコードさえ守ってくれれば他は自由だよ。とはいえドレスコーがある時点で奇抜な格好で来る人はいないけどね」

「タキシードとか、スーツ辺りですか?」

「まあ、そうなるね。とにかく場の空気を壊したり、失礼でなかったりすればいい」

「わかりました。それでは場所は?」

「知り合いが経営するホテルの宴会場を貸切るつもり。詳しい場所は後々通達するよ」

「そうですか」

「伝えたいことも伝えたから、もう行っていいよ」


 え、これだけのために呼び出されたの。


 ちょっと拍子抜けだが、用がないなら長居するのも悪いだろう。

 失礼しました、と頭を下げて社長室を出て、錦馬を待たせているロビーまで戻った。

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