7-4
夕方からライブがあるというすれっからしの二人と別れ、俺は入澤さんとファミレスを後にして駅に向かった。
ひとしきり入澤さんのグラドル談議に付き合い、次の話題に移ろうとした間隙に俺は切り出す。
「そういえば。今平さんと吉田さんは入澤さんと同級生って聞きましたけど、ロズさんとはどういう関係なんですか?」
俺が尋ねると、入澤さんがはたと振り向いた。
「唐突だね」
「話に出た時から気になってたんですよ。先輩って呼ぶ当たり年上だろうとは思いましたけど、業界がまるきり違いますから」
「たいして話すような関係でもないんだけどね」
そう言って、検討するように中空を眺めた。
「俺はロズさんとも面識がありますから、すれっからしの二人と良い仲を築くためにも知っておきたいんです」
「こじつけのような理由だね」
入澤さんがはっきりと物言った。
「わるいですか?」
「別にいいけど。私たちとロズさんの関係は十年前の高二まで遡る」
遠くを見るような目で回想を始めた。
実年齢が割れてしまっているけどいいのだろうか?
「と、まあ、こういう関係だったわけ」
入澤さんは回想を終え、視線を現在に戻した。
どうやら当時、今平さんとロズさんが同じ生徒会非公認のゲーム同好会に所属していて、生徒会役員だった入澤さんがゲーム同好会に解散を命じ、解散を回避するために今平さんが吉田さんを勧誘した、そうである。
「懐かしいね。あの時の私はグラドルになってるなんて想像してないだろうね」
過去の自分を思い出して愉快そうに笑う。
「きっと一悶着あったんでしょうね」
「一悶着どころじゃないよ。前任の役員の頃からバラ先輩と揉めてたらしいから。そりゃもう解散と存続でことあるたびに争ったの」
三人とロズさんの関係は明らかになったが、まだ一つ解けていない疑問があるのを忘れていた。
「大体の関係はわかりましたけど、どうしてバラ先輩って呼ぶんですか?」
「う、あー、それは単純な由来だよ」
「単純?」
まさかロズさんの実の苗字が薔薇ということはないだろうな。
「バラ先輩は本名が
「ロズさんはよく許しましたね」
「許してなかったよ。けど、学校中の生徒の誰もがバラって呼ぶから、訂正をするのを諦めたみたい」
同好会解散を拒否し続けていた強かなロズさんが諦めるほどだから、そうとうあだ名が定着してたんだろうな。
それに加えて、入澤さんは生徒会だったことも意外だ。
「入澤さんが生徒会っていうのは驚きですね。むしろグラドル同好会とか作ってそうなのに」
「私だって生徒会に入ることもあるよ。これでも成績良かったから、先生からは信頼されてたんだよ」
自慢するように言って、視線を前方に戻す。
行く先に人のまばらな駅の昇降口が見えてきた。
「ところで、恋愛の方はどうだい? 何か進展があったかい?」
唐突に色恋の話を振られて、すぐに返答できない。
野上の告白を断った件は打ち明けない方がいいだろう。口にすると夕立の決意が揺らいでしまいそうだ。
「進展は……特にないですね」
口を滑らしてしまわぬよう言葉数を減らして答えた。
「そうか、進展なしか」
入澤さんは反芻して、考えるように顎に手をやる。
昇降口の階段を上がり、改札の前まで来た。
俺はズボンから財布を出し、往復切符を抜き取る。
「かえで、はどうかな?」
つと俺を振り向き、返答を促してきた。
「どうかなって、どういうことです?」
前触れもなく西条の名が出て、切符を落としそうになるぐらい戸惑いながらも聞き返す。
「そりゃ彼女としてだよ。私の見る限りでは相性良さそうだからね」
「すみませんけど、相性だけで西条と俺をくっ付けないでくださいよ。名前を出された西条にも悪いじゃないですか」
俺の言葉に入澤さんはきょとんとした顔になり、無言で改札にカードを当てがった。
「かえでに悪いと思うなんて、飛びぬけて人がいいね君は」
「茶化さないでくださいよ。とにかく勝手に人と人を恋人にしないでください。本人がいないからって」
「君は自覚してないだろうけど。君の人の良さが錦馬さんがマネージャーとして傍に置く理由だろうね」
「そんなのただのお人好しじゃないですか」
「まあ、それだけじゃないだろうけどね」
そこまで言って、入澤さんは顔を前方に戻して改札を先に抜けた。
錦馬が俺といる理由、か。
そんなこと考えたことなかったな。
切符を通して、ホームへと降りる階段に向かった。
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