5-11

 西条にゲームで敗北してから一週間。決まった睡眠時間を確保しつつ、俺は『ウォーホーイレブン』の腕を磨いた。

 前回の雪辱を晴らすため、先程午後八時に西条にフレンド対戦を申し込んで、先程試合が終了した。


 結果は、3―2で惜敗した。

 西条のチームのキーマンを強力にマークして攻撃を封じ、前半までに二点を奪ったが、後半残り二十分で価値が見えてきた油断からか、立て続けに三失点してしまい、勝利はうたかたの泡となって消えた。


 対戦の後、メールでいつの間にこんな上手くなったんだ。負けそうでハラハラしたぞ、と慰めの世辞をくれたが、自分が敗北した相手に褒められても悔しさの方が勝る。

 西条との二度目の対戦を終えて、反省点を踏まえオンライン対戦に潜ろうと俺がフレンド対戦から退出しようとした時、西条から追加のメールが送られてきた。

 コントローラー片手にメールの文言を読む。


『対戦してすぐだが、頼みがある』


 頼み、か。またどこかに連れてってくれとか言い出すのか?

 手間のかかる頼み事なら断ろうと思いながら返信を考えていると、メールのチャット欄に一つの画像が貼り付けられた。

 西条が送ってきた画像は、どうやらネットページをスクショしたもののようで、ペア部門とか書いてある下に、細かい文字が要項ごとにズラッと並んでいる。


『送ってきたこの画像はなんだ?』


 狙いを探る意味でメールを返した。


『ウォーホーイレブンの大会参加の募集要項だ。動画を見てたら私も参加してみたくなった』

『へえ。その大会に出るのか?』

『へえ、なんて他人ごとじゃないぞ。あさぎも参加だ』


 ちょっと待て。西条は何を勝手に俺の参加を決めるんだ。


『言っておくが俺は大会に出る気はないぞ』


 明言しておかないと、あれこれ理屈をつけて参加をゴリ押しされかねない。


『一人では出られないんだ。ペア部門だからな』

『ペアじゃないと参加できない、ということか。だとしてもお前のペアが俺である必要はないだろ』

『知らない人とは組みたくない』


 短いメールの文面から、口をすぼませて駄々をこねる西条の様子が想像できる。


『俺と組んだところでお前の足を引っ張るだけだぞ』


 初めて二週間と数日の西条に負ける俺の技量を鑑みて、思い直してくれればいいのだが。

 メールはすぐに返ってきた。


『私よりあさぎの方が作戦や知識では上だ。私とタッグを組めば強いはずだ』


 強いはずと言ったところで、即席のペアじゃたかが知れてるだろうに。

 気苦労を吐き出したい心持で、俺は返信する。


『出場したところであっさり敗退するとしか思えないな。他のペアはきっと数倍は優れてるだろうからな』


 やる前から決めつけるな、とお叱りを受けるかもしれないが、それは重々承知の上だ。

 少し間があってから、西条から返信が来る。


『実力差があるなら埋めればよい』


 簡単に言ってくれるよ。暇つぶしぐらいにしかプレイしてこなかった俺の腕前が、大会で結果を出すために努力している連中に適うとは思えん。

 諦観に似た気分を抱いていると、続けてメールが送られてくる。


『おねがいだ、あさぎ。私とペアを組んでくれ。あさぎとなら緊張も少しは和らぐかもしれないぞ』


 顔の前で両手を合わせて懇願する西条の様子が頭に浮かぶ。

 自分の行動に肩をすくめたくなる思いで、俺は返信メールを打ち込んだ。


『少し考えさせてくれ。スケジュール合わせとかしないといけないから』


 すぐに西条から了解の意味合いのマークが送られてくる。

 一応、今から大会の日程でも調べておくか。

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