4-10
ナイトプールで何を競うのかと疑問だったが、先程疑問は氷解した。
もはや親近感が湧くほど昨日から見てきたMCが、マイクを手に大きな声を吹き込む。
「ボーナスステージ ナイトプールで魅惑のポージング対決!」
東西両軍のグラドル達からの盛大な拍手。
口慣れた調子で、MCが例によって対決のルールを説明する。
その後カメラがプールサイドの小島さんに向く。
「どうも。またしても登場のスヤマ・ウオーターランド案内係の小島です」
撮影を通じてカメラ慣れしたスマイルで、改めて自己紹介する。
カメラがパンして、ナイトプールの光景を映し出す。
「スヤマ・ウオーターランドでは、七月中旬から九月中旬にかけて毎週金曜と土曜の八時より、ナイトプールを開催します。金曜は予約無しの飛び入り参加も可能となっております」
テレビで放送する用の映像を流す画面が、数々のプールと同じピンク色で四囲をライトで輝かせるフードコートの店舗に切り替わる。
「ナイトプールではランチでは食べることのできない限定メニューも数多く、さながらバーのような雰囲気を楽しむことも出来ます」
カメラが再び小島さんを映す。
「ぜひ、皆さん。夏はスヤマ・ウオーターランドへ!」
小島さんによる宣伝を挟んで、番組は対決パートへと突入するようだ。
制作側が急いで対決をこしらえたからかルールは簡単で、先程のMCの説明によると、東と西で一人につき相手一人とマッチングして、何故か審査員に選ばれた小島さんが魅力的だと思った方に手を上げ勝敗を決める。それを五回行う、という内容らしい。
個人の好みで勝ち負けがつくのだから、視聴者側からしたら腑に落ちない結果になることもあり得るだろう。
両軍から選ばれた出場選手五人が隣り合わせて出番を待ち、一戦目の二人が小島さんの前に出て並んだ。西軍の五人には錦馬がいて、五人目として出場するようだ。
小島さんの前に立った二人は、それぞれ好きなようにポーズを取った。
大任を務める小島さんが官能的な体勢のグラドルを目の前に、番組撮影であることを忘れたように鼻の下を伸ばしている。
『早く判定を』というカンペを出された小島さんは、下心を払い去るかのように頭を左右に強く振ってから、西軍の子の方に腕を上げた
二戦目以降、小島さんは我に返ってむっつりと表情を引き締め、厳正に審査していった。
二対二までつれこんで最終五戦目。ついに錦馬にお鉢が回ってきた。
錦馬はMCに名前が読み上げられる時、マネージャー集団の右端にいる俺に視線を投げかけてきた。
自信に溢れた瞳が、私の勝利を見届けておきなさい、と言わんばかりだった。
しばし俺と視線を交わすと顔を小島さんの方に戻し、対決の場へと踏み出す。
「さあ、ポージング対決も最終戦。軍配が上がるのは、東と西どちらなのか!」
MCが場の緊迫を助長させ、全員が勝負を見守る。
周囲の空気に呑み込まれ、俺も声を出すのも遠慮する気持ちになる。
皆の視線が集中する中、錦馬は腕を後ろに組んで小さく首を傾げた。
日頃は不愛想な顔に、相手を思い慕っている少女のような微笑を浮かべる。
他のグラドルとは一線を画す色気とは程遠いポージングであるのに、誰よりも凄艶に目に映るのは、俺の贔屓目だろうか。
小島さんが不思議と艶やかな姿に見入って唾を呑む動作をしてから、ゆっくりと錦馬の方に手に振り上げた。
「錦馬菜津に小島さんの手が上がった……この対決、東軍の勝利!」
MCが声の調子を昂らせて決着を告げる。
東軍のグラドル達は喝采に沸いた。
二日目の対決は、全種目東軍の勝利で終了した。
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