2章 グラビア撮影のロケは意外とオヤジ臭い
2-1
被写体の錦馬菜津は、立膝でカラーコーンに抱きついて胴を隠す。
何をしているのかと言うと、某撮影スタジオで雑誌の載せる写真の撮影を行っている。
錦馬はコーンの先端から顔を覗かせて、艶やかに笑った。
「はい、オーケー」
カメラマンの男が、カメラから顔を逸らさず錦馬に向って指で丸を作った。
撮影終了のサインを見て、錦馬はコーンから身体を離して、虚脱するように正座の姿勢で座り込んだ。
「僕に撮られるの初めてなのに、コーンの扱いが上手だね」
カメラマンが錦馬に感心した声で話しかける。
「上手なにもありませんよ、監督の指示通りにしていただけ」
錦馬は謙遜する。
俺が錦馬菜津の仮マネージャーを務めだして、すでに二週間が経過した。
ようやく仕事にも慣れてきて、錦馬に小言を聞かされる頻度が減ってきている。
だが撮影そのものを見るのは今日が初めてだ。
今まではスケジュール管理や、依頼相手との談判、送り迎えが仕事の主だった。
「ひととおり撮り終えたから、錦馬ちゃん休んでていいよ」
「はい、ありがとうございました」
俺には見せたことない明るい笑顔でカメラマンに頭を下げてから、俺の立つ室内の端に歩いてくる。
俺の前に来ると、掌を差し出す。
「パーカー」
俺は彼女の求める通り、パーカーを手渡す。
「どうだった?」
それを受け取って羽織ると尋ねてくる。
「案外、撮影って時間がかかるんだな」
「そうね。雑誌の数ページに載るだけなのに、一日かかるのよ」
「もっと時間を短縮は出来ないのか?」
長い撮影を見るのに疲れた俺は、彼女に尋ねた。
俺の質問に手を横に振る。
「出来るならしてるって。撮影する人ごとにこだわりがあるし、少しでも足の位置がズレたり、笑顔がぎこちなかったりすると撮り直しなの」
そういうもんなのか。諸条件が揃って、やっと満足の行くカットが撮れるのか。
カメラマンが人知れず手間暇をかけていることを知って感慨を覚えていると、
「錦馬ちゃん、撮り直したいのがあるんだけど」と錦馬がカメラマンに呼ばれる。
撮影が終わったと思っていた俺には、申し分なく悲しい宣告だ。
その後一時間ぐらいかけて、ようやく撮影は終了した。
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