とあるペンギンの同棲カップルの、恋と子育ての物語。
不思議な手触りのお話です。設定面、少なくとも「ペンギンが喋る」という点においては童話的(ファンタジー的)なのですが、でもお話の内容自体はそこまで牧歌的でもない。愛らしくはあっても決して子供っぽくはなく、描かれているのはあくまで恋人同士のドラマ。同性カップルではあるものの別にBLというわけではなく、でも物語世界自体はものすごく自然にそこに存在している。ちょっとうまく言えないのですけれど、この作品全体を言い表すための個性というか、「このお話らしさ」のようなものが、ジャンル的/類型的なものに依らず独立しているような感覚。この物語のありようがとても魅力的でした。自然で、しっかり確立されていて、しかもスッと理解できる。
お話の軸そのものは恋人同士の葛藤、小さなすれ違いとその解決を描いたものです。のんびり屋さんで鈍感な主人公・ジッタと、繊細で神経質なところのある恋人・フィン。この性格の差から生まれるすれ違いから物語は始まっているのですが、彼らのこの性格の生々しさが最高でした。
例えば、というか、特にわかりやすいのがフィンの方。いきなり大声出して対話不能になっちゃうところとか、からかわれると強い力で叩いてくるところとか。この、なんでしょう、ありありと伝わるピーキーさのような。というか、ジッタをして「なんというか」と言い澱ませてしまうところ(この「なんというか」の一語から伝わる情報量好きです)。
この関係。非常に危なっかしいようでいて、でもそんなに重くも黒くも感じないのは——まあ彼らがペンギンだからというのもあるのでしょうけれど、でもそれ以上に——フィンを見つめるジッタの目線が優しいからだと思います。もちろんフィンはフィンでその気持ち自体は本物というか、さっき挙げたあれこれも結局は思いの現れみたいなところがあって、その辺りの真っ直ぐさがもう本当に大好き。心が温まる、なんて言い方ではちょっと他人事すぎるというか、だってもう単純に可愛い。何かわかりやすい激しい場面、強烈な展開があるわけではないのに、交わされる言葉や向けた視線のような細部から、お互いに思い合う気持ちの強さがちゃんと読み取れてしまう。
なにより触れずにおれないのが結びの展開、というか最後の一文です。きっとただ感じたままを述べたわけではなく、ある種宣言にも近いなにかであることを示すこの「少なくとも」の用法! なにより彼をしてそう言わしめる心の中の論拠というか、このお話を経て生じた変化のようなものがとても好きです。成長というか、はっきり「乗り越えた」というのがわかること。総じてなんだかにやけてしまうというか、嬉しくなっちゃうような素敵な作品でした。柔らかくて優しい漢字の開き方が好きです。