第39話・銭湯

「へぇ、君にも見えるんだ」

初めて出会った彼女の第一声はそれだった。

「……灯夜くんは……どうして……を助けたの?」

彼女は、俺の行動に疑問を持った。

「君の記憶と能力は封印しておいたよ。本当は私と……の記憶だけにしたかったんだけどね。君には私みたいなのになってほしくないの」

この街を出る時、彼女はそう言って泣いていた。


場面が一転する。


左右の耳から、砂塵のような音がする。

周りが真っ暗で何も見えない。

体中の感覚がない。

声が出せない。

さっきまでのは何だったのだろうか。

所々忘れてしまったが、あれは過去の記憶なのだろうか。

「よし、完成!」

いきなり砂塵と一緒に、声がした。

いつの間にか灯夜は部屋の一角に立っていた。

周りは年季の入った壁と、本棚があり、1人の男が机の上でマンガを描いていた。

たとえそれが不人気であっても。

彼は自分の好きなものを描いていた。

何度も落選しても。

彼は周りの流行りには乗らなかった。

何度も何度も新しいネタができたらすぐに描いていた。

何度も何度も何度も何度も、彼は描いては出す、描いては出すを繰り返した。

けれども、永遠に続ける事はできなかった。

そして、目の前が砂塵で埋まり、灯夜の意識は消えていった。


「お……ちゃん!お…いちゃん!お兄ちゃん!」

誰かが俺のことを呼んでいる。

目を開けると、泣きながら声をかける明花がいた。


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