第37話・銭湯 男湯

「ふぅ……」

 灯夜は肩まで湯船に浸かりゆっくりと息を吐いた。

(しかし、仔春さん、真保の姉という辺り、除霊師だよな)

「そうっすね、しかも中々の腕前を持っている除霊師っすね」

「うわぁ!」

 いきなり真横から声がして、灯夜は声を上げ、飛び上がった。

 その声を聞いた他の客が、灯夜の方を見たので、灯夜はすぐに少し恥ずかしそうに黙った。

「ふふん、驚かし大成功っす」

 人型になっていたクロすけは得意げな顔をした。

「で、どうしてここにいるんだ?」

 灯夜は周りに聞こえないような小さな声で話した。

「一人で風呂に入ってるのが、かわいそうだったから来たっす」

「だからって、女の子が?……猫だからメスか?」

「両刀っすよ」

 そうクロすけは言い湯船から立ち上がり股を見せてきた。

 そこには、男のと女のが両方付いていた。

「え……」

 灯夜の顔はみるみる赤くなり、とても大きな悲鳴を上げた。

 傍から見れば一人で暴れているようにしか見えないと思い出した灯夜は、慌てて周りを見た。

 誰もいなくなっている。

「あれ?」

 さっきまでいたはずの客が、元からそこにいなかったかのように姿を消していた。

 灯夜は慌ててクロすけの方を見ると、険しい顔をしたクロすけがいた。

「クロすけ?」

「こんな強力な結界の設置、気付かなかったっす。しかも、結界を張った当の本人は結界の外にいるし、怪異が見える人だけを結界の中に入れている。一体誰が……」

「なあ、クロすけ?」

「うなっ!?」

 もう一度声をかけると、驚いたクロすけが飛び上がった。

 灯夜は顔を反らしアレをまた見ないようにした。

「と、灯夜さんっすか。はー、びっくりしたっす」

「びっくりさせたのは悪かった。けど、どうなってるんだ、これ?」

「今分かるのは、結界の中に入れられたってだけっすね」

「結界?」

「簡単に言えば、見た目がほぼ一緒の別空間って感じっすね」

「言われて見れば所々よく見れば違う……か?」

 灯夜は、また周りを見渡して、ふとタイルの壁に目が行く。

 目を凝らしてよく見ると、黒色のタイルの所から白い湯気が出ている。

「なんだこれ?」

「危ないっす!」

 後ろからクロすけの声を聞いた後、灯夜の体は吹き飛ばされた。

 荒ぶる視界の中で灯夜が聞いたのは、何かが崩れる音と、灯夜を呼ぶクロすけの声だった。

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