女子高校生のヒカリさんが、男子高校生のヒカルくんに向けてまくし立てる、生と死と愛についての長い口上のお話。
恋愛ものの掌編です。約3,000文字という分量の短さもあるのですけれど、でもある意味ではそれ以上に短い物語。なにしろ完全な一場面、おそらく十分にも満たない一瞬の出来事を切り取ったもので、しかもかなりの分量がセリフで構成されているため、勢いというかライブ感のようなものがありました。時間の経過が一定というか、読むのにかかる時間と作中の時間の流れが、そのまま正比例しているような感覚。
冒頭の勢いというか乱暴さというか、巻き込まれ感のようなものが強烈でした。大量の長音記号で埋め尽くされた本文。解釈に自信はないのですけれど、でも意識がクリアになった瞬間にはもう遅いというか、状況が掴めないままに一方的に捲し立てられているような感じ。加えて語られる内容が内容というか、滲み出る不穏さの質と量がすごい。愛について語って、そこから死が解放であるとかないとかのお話。しかもこちら(主人公)の返事を一切求めないあたり、どう好意的に解釈したところでまず尋常ではない。
とはいえ、果たしてこれがどういう状況なのか、そもそもふたりはどんな関係なのか、前提はまだなにひとつわかっていないのですけれど。いきなり無手で投げ込まれた『なんらかの状況』の中、会話や地の文から少しずつその詳細が明らかになる——のかと思えば全然そんなことはなくて、ただ一方的にまくし立てられるばかりなのが楽しかったです。っていうか怖い!
なるほど、まさしく「ヤンデレ」というタグの通り。ってことはこれ早く状況を掴まないと大変なことになるのでは? と、必死で読み進めるも、しかし辿り着いた先はまあ案の定の結末。この諸行無常感。なにより、結局最後までなにもわからなかったところ。この人たちの関係性どころか、性格や容姿等の人となりすらも。
なんだか衝撃的でした。パッと現れてパッと燃え尽きる火の玉のようなお話。そしてなにもできないまま、そこに巻き添えにされるこちらの命。いわばヤンデレシミュレーターのような、とにかく臨場感のある作品でした。ヒカリさんの長広舌が好きです。正確にはそこへの回答が、命を握られたヒカルくんの立場で読むのと、安全圏から眺める立場とでは違ってきそうなところが。