祭壇
特上の心霊写真が手に入ったぞ!!
聞くからにウキウキして喜んでいる社長からの電話を受けたのは
僕が大学1年生の12月の朝一番だった。目を擦りながらテレビを付けると、
ちょうどいつも見ている4チャンネルの「今日の占い」がやっていた。
世に言われる心霊写真は大抵、パソコンなどで合成加工処理をされた偽物だ。
俺はこれまで本物の心霊写真を見たことは一度もない。
というか、自分が心霊写真だと思い込み溜め込んでいたコレクションを
社長に見せたところ即座に「それは全部偽物だな」と言下に否定され、
肩を落としてガッカリしたものである。
しかし本物は存在する、と社長は度々言っていた。
「いずれ本物が手に入ったら見せてやるよ」
と嬉々とした顔でそう言っていたのだ。
そして今日、その”本物”をついに拝めると聞いて
僕も楽しみにしながら事務所にやってきた。
「失礼しまーす」
と言いながら事務所の扉を開けると、
社長は難しい顔をしながらデスクの上に置かれている2枚の写真を見ていた。
恐らくこれらが例の”本物”だろう。
1枚は幸せそうな家族写真、もう1枚は10名ほどの大学生くらいの若者が旅行先で撮ったであろう海辺の写真。
そのどちらにも、謎の赤い光と祭壇が写りこんでいた。
それを視認した瞬間、ゾゾゾっと悪寒が襲った。
本物だというのは見ただけで分かった。
レベルが違う。込められた怨念のレベルが違う。
「社長、これって・・・・」
と言おうとした瞬間、
「おい、今は西暦何年の何月何日の何時だ?」
と社長が尋ねてきた。
僕は何を言っているんだ・・・?と疑問に思いながら腕時計を見て
「20××年の、12月13日の午前10時ちょうどくらいです」
と答えた。
すると社長は
「ヤバいな・・・」
と呟いた。そして社長は
「ところでお前は誰だ?」
と言った。
「はっ・・・?」
何の冗談ですか?と言いそうになってから口を噤んだ。
社長の目は真剣だった。
「お前は本当に目を覚ましているのか?」
「・・・?」
「お前の目に見えているこの風景は現実だろうか?」
「・・・・」
訳が分からない。
混乱した僕は腕時計を見た。
西暦や日付なども確認できるデジタル腕時計だが、
そこに表示されていたのは
『1995年12月13日』
だった。
なぜ?どうして?俺は”ナニヲミテイル?”・・・・・・・
「俺がお前に電話をしたのは『今日』、20××年の12月13日の朝だ」
「目を覚ませ。お前は”夢”をみせられている」
そして僕の視界は暗転した
・・・・・・・・・・・・・・・
目覚まし時計の代わりに使っている、携帯電話のアラーム音が聴こえる。
重たい目を少しだけ開けて、携帯電話の画面に写る日付を確認する。
『20××年12月13日』
ここは現実だ・・・少し不安になりがらも、その事実をテレビなどで確認した。
直後、社長から着信があった。
「特上の心霊写真が手に入りましたか?」
開口一番に僕は社長にそう言った。
言わんとした言葉を先に使われた社長は、少し戸惑いながら
「そうか。この写真に入り込んだ祭壇は・・・・」
と呟いた後に「見に来るか?」と訊いてきた。
「いえ・・・もう見ましたから」
僕は丁重にお断りした。
社長は「そうか」とだけ言って、電話を切った。
カーテンを開ける。
冬らしく眩しくも儚い朝陽が僕の目を射す。
この朝陽も本物だろうか?
現実を現実として認識できないことは、こうも恐ろしいものなのか。
後日、あの写真をどう処理したのかを社長に尋ねた。
「なくなった」
という一言だけだった。
多分、また『祭壇』に出会う日が来るだろう。
一種の宿命じみた予感がした。
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