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いや……ちょっと待てよ。
本当に、無理な話か?
出港時と違い、連絡艇の着港はハブポートへ、と決まっていた。ステーションの回転軸に当たる部分である。本来はここが宇宙ステーションの正式な港であり、ここなら大型の船でもなんでも停泊することができる。そして、ハブポートに着港するためにはスラスターによる針路修正と減速が必要だ。だが、マリリンが密航したせいで、そのための
しかし。
「さくら2」も「さくら1」と同じ直径で、同じ方向に同じ自転速度で回転している。つまり、「さくら2」のリムポートの線速度は、原理的に今の俺たちの艇の速度と全く同じなのだ。だから、リムポートに着港すれば、ほとんど減速しなくて済むじゃないか!
もちろん、それが禁じられているのはそれなりに理由がある。
連絡艇は直線運動しているのに対し、リムポートは円運動している。つまり、接触できる時間が一瞬しかないのだ。そんな短時間で艇のドッキングフックをポートのアームが掴めるはずがない。
だが。
俺はさくら2コントロールを呼び出す。
「リクエスト パーミッション トゥ ダイバート トゥ リムポート(リムポートへの目的地変更の許可を求む)」
『なんだとぅ?』管制官の声は裏返っていた。『リムポートに着港する気か?』
「アファーマティブ」
『無茶言うな! キャッチアップできるわけないだろう!』
「できるさ。俺はザ・ラスト・ドルフィンライダーの"スルー"だぜ」
そう。俺の前職は、
「マニュアルでステーションの回転半径、回転速度に合わせて
『だけど、その間ずっとプロペラントを消費するだろう?』
「その通りだ。俺の計算では……それができるのは十秒、ってところだ。だが、それだけあればキャッチアップできるだろう?」
『……わかった。リクエスト アプルーブ!(許可する)』
「そう来なくちゃな!」
通信を切りかえ、早速マリリンに俺の考えを伝える。
『ほんとに? ほんとにあたしたち、二人とも助かるの?』
「ああ。俺の腕を信じろ。ただ、
『分かった! あたし、スキッパーを信じてるよ!』
「その代わり、失敗したら……俺と心中だがな」
『……いいよ。それなら寂しくないから』
「ま、そうならないように、頑張るさ。さ、もう時間がない。着港の邪魔にならんように、艇の真下に移動してくれ。そこで命綱を引っ掛けて、掴まるところがあったら掴まっているんだ」
『了解!』
ウインドウからマリリンの姿が消える。
「さくら2」はもう視認できるくらいの距離に近づいていた。
『クリアー トゥ ドック、リムポート03(リムポート03へのドッキングを許可する)』管制官からの指示だった。
「リムポート03、コピー(了解)」
応えて俺は操縦をマニュアルに移行する。フロントウィンドウに方位計とピッチ計が表れる。スラスターは合計8か所。
03と大きく書かれたリムポートが見えてきた。ドッキングアームが既に降りていて、その先が開いている。あれが俺の艇のフックを掴むことができれば、ミッション終了だ。
「マリリン、準備はいいか?」
『オーケー。移動完了』
「命綱は?」
『ロックした。確認。問題なし』
念のため、マリリンが映る位置にあるカメラで彼女の姿を確認する。彼女も何か両手で掴むものを見つけたようだった。鉄棒で懸垂するくらいのGはかかるだろうが、あれなら大丈夫だろう。
「ようし、それじゃ行くぞ……レッツゴー、ループ、ナーウ!」
俺はスティックを引く。ぐん、とプラスGがかかる。艇体はピタリとポートの真下に静止する。
だが。
どうしてもアームがフックを掴んでくれない。ポートの技官もマニュアル操作でアームを動かしているのだろうが、なかなかうまくいかないようだ。
プロペラント残量がみるみる減っていく。警告音。
まずい。
あと3秒、2、1……
もうダメか……
と、思った、その時だった。
『ええい!』
マリリンの声がしたか、と思うと、艇体が少しだけ浮き上がる。
「!」
それが功を奏したのか、とうとうアームがフックを掴んだ。
「マリリン! やったぞ! 成功だ!」
だが、応答がない。
「おい、マリリン?」
嫌な予感がした。
俺は、マリリンを映していたカメラの映像に視線を移す。
彼女の姿は、消えていた。
まさか……
いや、ひょっとしたら……
あいつ、命綱を外して、吹っ飛んでいったのか……?
それの反動で、艇体が浮き上がったのか……?
俺を、助けるために……?
いつしか、俺の視界がぼやけ始めた。
バカやろう……何のためにここまでやった、と思ってんだよ……死にたくないんじゃ、なかったのかよ……
涙がとめどなく俺の頬の上を流れた。
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