幕間 追随の執務室

「…して、他郡の支援は?」

「先月のスピルフ教地からの支援以来…何も。もう、何処からも受けられないと見て良いでしょう。」

「…そうかい。上手くやりくりしていかないとね。」

「…ジュネバ神子。」

「なにかね。」

「もう既に、投降すべき域まで迫っていると、…存じます。」

「私のやり方に不満があると?」

「いえ…!滅相も無い!わたくしは、ただ…!」

「無いなら何の問題があるんだ?」

「いえ…何も」

「そうかい。」

ゴン

凍りつく空気の中、金属製の扉が強く叩かれた。

入室の許可を求める合図だ。

「入れ。」

入った兵士は、オトアレンズを力強く見せつける。

この教郡における、敬意の表しだ。

「ジュネバ、急ぎご報告が。脱走兵です。」

兵士は息を切らしながら話した。

ジュネバと称される男は、少し面を食らったような反応をした。

「番号は?」

「アフェルです。」

「アフェル…翼の向きと聖母名は?」

サドネ、オードです。」

「アフェル・サドネ=オード……ああ、彼か。一緒に住んでいると行動も似てくるものなのかい、イフェル・サドネ?」

「…いかがでしょう。」

イフェル・サドネと称される男は、バツの悪そうな顔で、そう返した。

「指示を待ちます、ジュネバ。」

「うーん、捜索隊を派遣する。オフェロマシ・サドネ=アレハ、ウィプ・ユット=アレハ、イフ・ユット=オード、イフェル・サドネ=オードの4名だ。通達しろ。」

「僕もですか!?」

「ここから先のことは、経験のある君の方が詳しいだろう?それに、研究室に篭もりっぱなしでは兵士として心許ない。鍛えてこい、以上。君も帰って構わないよ、報告ご苦労。」

ぞろぞろと、狭い入口から集団が出ていく。

外から入ってくる冷たい空気が、執務室を虚空のように演出する。

「ジュネバ、熟練者ばかりの配属でしたが宜しかったのですか?その…あの程度の者、‪もはや放っておいても良かったと思いますが。斯様な時期に、兵が足りないというのは…。そもそも彼は、兵としての意識が足りず、我々にとっても負担になっていましたし。」

執務室に残った秘書らしき軍人が、問いかけた。

「…主神の意思に抗う者は?」

ジュネバは、一言一言ハッキリと、質問で返した。

「相応の天罰が下る、ですね。」

「そうだ。つまりそういうことだ。だが主神は忙しかろうから、このジュネバ神子が代わって刑を執行し給うのだ。」

秘書は、表情の見えない顔で「かしこまりました」とだけ伝え、仕事に戻った。

話を終えたジュネバが見つめているのは、虚空であった。

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