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「ええっ? どういうことですか?」
「彼はとある公的機関からスタートアップ企業向けの助成金を受けていたのです。ですが、その助成金は現金ですぐに交付されるんじゃなくてね、まず銀行から予めその額を借りる、っていうタイプのものだった。そして、ある期間を経た後その使途を審査されて、はじめて交付される。ところが、あいにくリーマンショックと重なり、彼の会社は売り上げが思うように伸びなかった。それでも助成金が下りればなんとかトントンになるはずだった。しかし……その公的機関が、交付を認めなかったんですよ。使途がルールと合致しないとか、いろいろ理由を付けてね」
「……」
「もちろんその公的機関は税金を無駄遣いするわけにいかないから、厳しく審査したのでしょう。だけど、彼はまだ経営者としては駆け出し。圧倒的に知識が足りてなかった。その使途が助成金対象にはならない、なんて教えてくれる人もいなかった。だから彼にしてみれば、騙された、と思ったことでしょうね。それで結局借金がそのままになり、会社はあえなく倒産。その時彼は思ったんだそうです。よくも騙しやがったな、今度は俺がお前らを騙してやる番だ、とね」
「……それは……気持ちは分かりますが、間違っていると思います」
「そうですね。その通りです。彼も自分の過去の姿を客観的に見て、それがいかに醜くかったか痛感したようです。彼は『UFO捜索隊』を辞める、ということでした」
「え、それじゃ、その後は……誰が……」
「朝川君、君がやってはどうですか?」
「僕が?」
「ええ。やはりね、地域おこしは、地元の人間が主導してやらなきゃダメだと思います。外部の人間に丸投げするんじゃなくてね。君はこの町出身ですから、君が最も適任じゃないでしょうか。と言っても、彼と同じことをする必要はありません。君なりに考えて、やっていけばいい」
「……それは少し考えさせてください。だけどその前に、先生」
僕は先生をしっかり見据えて続ける。
「あなたは、何者なんですか?」
先生は、寂しげに笑って、言った。
「事故……だったんですよ」
「事故?」
「あの日、8ミリカメラを構えていた中野清三郎は、消えてしまった。我々が調査用に照射した電磁波は、彼には強すぎたのです。だけど、彼の意識と記憶は消える直前にバックアップされ、それを私が受け継いだ。ある意味、彼に再び命を与えたようなものです。昔の特撮ヒーローで、そんな設定がありましたね」
「……」
「そして、特撮ヒーローは、正体がバレたら元の世界に帰らなければならない。だから……私も高次の世界に帰ります。さようなら、朝川君」
そう言って、先生は僕が大好きな笑顔になった。
「え、ちょ……ちょっと待ってください、そんな、突然に……」
だが、先生の姿はみるみるフェードアウトしていった。今度は、UFO……改め、プロジェクターと共に。
「先生……」
ふわり、と、再び風が舞った。
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