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そしてまたしばらく経った、ある日。
「……いいか、ほえ面かくなよ!」
いきなり館長室のドアが乱暴に開いて、怒りの形相の大久保さんが飛び出していった。
「何があったんですか?」
僕は館長室の中を覗き込むと、複雑な表情の中野先生が立っていた。
「いや、何でもありませんよ」
「何でもない、ってことないですよね? あの人に話したんですか?」
「……」先生は肯定のため息をつく。「ああいうのを、逆切れ、と言うんですかね。こちらが冷静に事実を指摘していったら、あの通りですよ。図星を刺されたんでしょうね」
「……」
だが、大久保さんはすぐに戻ってきた。何か埃まみれの木箱のようなものを携えて。
「館長、あんただって同じ穴のムジナだろうが! これはどう説明するんだよ!」
そう言って彼が木箱から取り出したのは、奇妙な形をした物体だった。それを見た瞬間、先生が眉をひそめる。
あ……それ、見たことある……
「中野ムービー」に映っていた、UFO じゃないか!
「これを撮影した当時、あんたは高校生。だが、アマチュアで8ミリの特撮映画を作っていたそうじゃないか。例のムービーも、これを使って撮影したフェイクなんだろ? ああ?」
UFOを振りかざしながら、大久保さんが得意満面で言う。
「その箱は鍵をかけて、倉庫の隅にしまっておいたはずですが……」
無表情で、中野先生が淡々と言う。
「古いからな。鍵なんか普通に壊れたんじゃないのぅ?」
大久保さんはそう言うが、木箱にかかっていた南京鍵には、何か硬いものでつけられたような新しい傷があった。どう考えても、この人が壊したんだ。なんてことを。器物損壊じゃないか。
おそらく大久保さんは倉庫でこれを見つけて、人に見られたらまずそうなものだ、と直感して開けてみたんだろう。そういうカンも、この人はよく働くのだ。
「おう、朝川」大久保さんが僕の方に顔を向ける。「お前の尊敬する中野館長はな、これを使ってフェイクムービーを作って全世界を騙したんだ。とんだフェイク野郎だったんだよ」
大久保さんは勝ち誇るような笑顔になり、先生に向き直る。
「あんたが俺の経歴詐称をバラす、って言うんなら、俺もこれをバラしてやる。『宇宙人の町』っていう設定が、根底から覆されることになるんだぜ。そうしたらどうなる? 他に何も観光資源のないこの町に、いったい誰がやってくるっていうんだ? ま、俺はもうコンサル料は十分いただいたし、この町がどうなろうが知ったこっちゃないがな」
……。
ショックだった。
あの、「中野ムービー」が、フェイクだったなんて……
僕は思わず中野先生を見つめる。先生は無表情のままだった。
そして、おもむろに口を開く。
「何か、勘違いしているんじゃないですか? それは本物の UFO ですよ」
「ぎゃっはっはっは!」大久保さんが下品な笑い声を立てる。「言うに事欠いて、本物です、と来たか! 全く、これのどこが本物と……!」
そこで彼の言葉が途切れる。表情が凍り付いていた。
UFO が彼の手を離れ、いきなり宙に浮かび上がったのだ。
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