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ある日のことだった。
ネットニュースに以下のような記事が流れていた。
"有名大学教授、「学位工場」で博士号を取得していた過去が発覚。経歴詐称の疑い"
あれ、この人うちの大学にも講演しに来てたぞ?
学位工場? なんだそりゃ。
早速ネットで調べてみると、アメリカでは結構ある話で、要するにお金で博士号を買うことができる、非認定の「大学」があるらしい。ディプロマ・ミルというんだそうだ。
……アメリカの大学?
なんか少し嫌な予感がしたので、僕は大久保さんがMBAと博士号を取ったという大学を調べてみた。
……ビンゴ。
正真正銘、紛う方なきディプロマ・ミルじゃないか!
そうなると、彼の華麗な経歴そのものが怪しくなる。彼がコンサルを担当した、と言われている事例を一つ一つ調べていくと……
どうにも彼の名前が出てこない。いやまあ、全くスタッフの名前が出てこないプロジェクトもあるにはあるが……それにしても、他の人の名前がちゃんと載っているプロジェクトに、中心となって成功させたはずの彼の名前がない、っていうのはどう考えてもおかしい。
しかも。
プロジェクトの中には、時期的にかぶっているものが結構ある。3つくらいプロジェクトが重なっている時期もあるのだ。だけど、いずれもその地域にずっと滞在していなければできないような内容ばかり。
……。
さらにいろいろ調べてみた。
どうも、昨今の「地方創生」の波に乗り、詐欺まがいの悪質なヤカラが補助金目当てにコンサルと称して地域に入りこんでくる、という例が多いらしい。
……。
これ、完璧にアウトじゃないか?
どうしたらいいんだろう……
とりあえず、僕は中野先生に相談することにした。
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「そうですか……」
そう言ったきり、中野先生はため息をついて沈黙する。顔に刻まれたしわが、深くなったように見えた。
館長室。応接セットに腰を落ち着けて、僕らは向かい合っていた。
「これ、問題になる前に何とかした方がいいと思いますよ」
僕は念を押してみた。
「……しかし、彼は町長はじめ三役には随分気にいられていますからね」
先生は眉根を寄せる。
「そりゃ、あの人は口八丁手八丁ですから」
そう。彼の口は本当によく回る。だからいつも僕らが文句をつけようとしても、何だかんだでうまくかわされてしまうのだ。それは確かに彼の才能と言えるかもしれない。
「そうですね」先生はうなずくと、表情を緩める。「ですが、そういう人間は得てして中身がなかったりするものですからね。分かりました。少し彼と話をしてみます。もちろん君から聞いた、なんて言いませんよ」
「……ありがとうございます」僕は頭を下げた。
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