第9話 お宝をスマホであばきだす
俺がその前に膝まずくと、百合さんも父も捜査員たちも寄ってきた。
ゆっくりと引き出すと、やはりそこにあった。
冷えたネギやなすをどける。
下から桐の箱が出てきた。
蓋には「小倉百人一首」と印字されている。
冷蔵庫の野菜室に収められていた。
俺はしずしずと箱を取り出しコタツまで運ぶ。
「それ、カルタよ。名簿なんかあるわけないじゃない。まさかSIMか何かなの!」
「名簿が作られたのは数十年前だ。その頃そんなものはない。当時は貴重なデータや書類はこれだよ」
百合さんに一口ようかんの包装フィルムを渡す。俺はカルタの一枚を取り出した。「夜をこめて…」清少納言。近くにあった花ばさみで読み札の裏紙をはがす。すると案の定、黒い小さなそれがでてきた。
マイクロフィルムだ!
百合さんのスマホを借り、ライトを点けてその上にフィルムをかざす。それを俺のスマホで撮影し、モノクロ反転するとやはり現れた。表計算ソフトで作られた一覧表だ!
父とJKと捜査員が後ろで息を飲む。画像を拡大すると――
氏名・住所・電話・生年月日・血液型・出身校・勤務先・年収・役職・家族構成・趣味・嗜好・特技・資格・健康状態という情報だった。
「こりゃあ、すごい。これは釣り書き――婚活のプロフィールカードだ!」
誰かが近くで叫んだ。百合さんは目をしばたかせている。
「信じられません。小倉百人一首の中にこんなものを隠すなんて。これ大臣ですよ。こちらはTVでよく見る人。ああ、この方……」
皆俺のスマホの画像にくぎ付け。父が尋ねた。
「どうしてわかったんだ?」
「おばちゃんが百人一首をそらんじるのがずっと気になっていたんだ」
その時、LI〇Eに神田からメッセージが届いた。開いてみると、犯人追撃の動画だった。誰かがバイクで首都圏「わ」ナンバーのバンを追っている……とコメントされている。
「……多分うちのじいちゃんは名簿の価値を感じマイクロフィルムにして隠すことにした。当時、機密文書を記録する媒体はマイクロフィルムだ」
LI〇Eの動画は刻々とバンを追い詰めていた。するとパトカーが追い越しバンを追撃しだした。この動画に捜査員が気づき県警に問い合わせている。
「……だがフィルムは熱に弱い。だから冷蔵庫に保管するようにおばあちゃんに指示した。それがおばあちゃんの潜在意識に残っていて、何かのスイッチが入ると百人一首を思い出すんだ」
「これ何のリストなの?」
神田から次々とLI〇Eが届く。さっきの動画に加え、歩道から撮影したと思われるパトカーとバンの画像やメッセージが受信される。
「……多分うちのじいちゃんはおばあちゃんと合コンのようなもの取り仕切っていた。数年ですごい数に及ぶエリートとCAのデータが集まったんだと思う」
百合さんが札の一枚を透かして見る。もちろん何も見えない。
「でもどうしてこんなに厳重に隠すの?」
「多分じいちゃんはここまでするつもりはなかったのかも。おばあちゃんが埋め込んだじゃないのか」
父と捜査員たちは黙っている。
「だが首謀者を捕まえないことには、君とおばあちゃんはずっと狙われる」
俺のLI〇Eにまた動画が届く。見て驚いた。バンが街路灯に激突した。パトカーから警官が飛び出し大破したバンから運転手を引きずり出す。
ホッと息をした俺と百合さんの目があった。
「……ところで、なぜ君はわざわざ隣町から来てまで、おばあちゃんの面倒を見るようになったんだ?」
「中高ずっと女子校でしょ。男性との出会いがなくて彼氏が欲しいかな……って。友達に相談したら、ちょっと違うかな、って人ばかりで。たまたまおばあちゃんちに来た時、おばあちゃんが『あなたを押し倒せ』って言うじゃない」
その時、捜査員のスマホが鳴った。電話を取ると「そうですか。良かったです。お疲れ様です」と言っている。
百合さんが「つかまった?」と口パクで聞いてくる。「お・わ・り」と俺も口パクで答えた。
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