第8話 あいつをスマホで追い詰める


父の息遣いが間近に聞こえる。父が俺につぶやいた。

「スタッフを二人残して引き上げる」

父がつらそうに離れていく。

俺はスマホをこっそり取り出し、LI〇Eした。


その時、ドアの開く音に捜査員が立ち止まる。


「ねえ、大丈夫なの?」

百合さんが帰ってきた。

「君んちの工場が何もなくてよかったな」

「ええ、大嘘よ! 全く何ともないのよ。もう嫌になる。あれ! なあにこの酷いありさま!」


家中の散乱を見て怒り出す百合さん。捜査員たちがばつが悪そうな顔をした。俺はこれまでのことを説明しながら二人で片づけを始める。


「デリバリー男まだ捕まっていないのね」

「もう少しで見つかると思うよ。友達の神田に頼んだから」

「……どういう事?」近くの捜査員が聞き耳を立てる。

「そいつはUber Ea〇sのような大きなバッグ担いで自転車できた。この意味わかるかい」

「デリバリーに見せかけるためでしょう」

「違うよ。逆に高齢者ばかり住むここらでは目立つ。なのにそれを選んだのは、車が入りにくい所でかさばる荷物を運びたいからだよ」

「かさばる!? 何のこと?」


帰りかけていた捜査員たちと父がこちらを見ている。

俺は水屋に置いてあった一口ようかんの器をコタツに置く。


「名簿がかさばると思っているのさ。多分1000名以上の名簿でしかもかなり詳細な内容なんだろう。書類にしたら相当の量になると踏んでいるんだ。例えば写真アルバムなら20冊以上とか」

「そんなものここにはないわヨ!」


一口ようかんのフィルムを開き口に入れた。口の中にほのかな甘みがにじむ。


「きっとある。それよりも不思議なのは、そんな大きなバッグを抱えた自転車が消えたほうだ。警察が躍起になって探しても見つからないのは、きっと車に乗せているからだ。車は商業バンで検問に引っ掛かりにくいタイプだろう」


帰り支度の捜査員たちと父が俺に近づき、「続けろ」と目で命令する。


「多分、こいつは色んなケースを想定して準備してきたと思う。初めから○○県警の動きも知っていたほどだ。だから、ずっと君を見張っていて……もし君が名簿を見つければ自分に渡させる。もし見つからなければウケ子に渡させ○○県警に逮捕させる――こういうプランを組んだ」

「あなたはウケ子に間違われたの? で、私はずっと見張られていた……ってこと!」


彼女にはこれ以上ショッキングなことを言うのはよそう。多分、俺をストーカーに間違えたのは犯人につけられていたのを無意識に感じていたからだ。


捜査員たちがぼそぼそと話し出した。

「名簿が見つからない場合は、ウケ子を拘留している間に家探しするつもりだったのか」

「○○県まで刑事たちを引きあげさせるためか。なるほどなあ」


彼女は俺に急接近して俺にささやく。

「ねえ。じゃ犯人はどこにいるの? 絶対犯人捕まえてよ」

百合さんは一口ようかんを半分にし俺の口に入れた。

舞い上がった俺はドローン。地上に戻りやっと返事をする。

「……心配ない。LI〇Eで、友人の神田に、ネットワークを使って、えっと、探すように頼んだ」


百合さんも父も捜査員もキョトンとしている。

「新幹線で大荷物は運びにくい。やつは運びやすいよう車でこの町まで来たんだ。多分首都圏か○○県のナンバー。それも商業車バンを見つければいい。難しい事じゃないよ。……そら来た」


神田からLI〇Eが届いた。メッセージあり、画像あり、動画あり。

すべて首都圏ナンバーの商業車だ。その一枚に運転者の顔が映っていた。

奴だ! 車番は首都圏「わ」ナンバー車だ! 俺のスマホをのぞき込んでいた部長刑事がどこかに連絡した。


「すご~い。宗次すごいよ。警察でも分からないことあなたよく推理するね」

この言葉を待っていました。初めて下の名前で呼ばれたし……。「いや~」とにやけるのを――ここからがクライマックスと気を引き締めた。父が横で渋い顔している。


「次は名簿だ。名簿を探そう」

「そんな大きなものないわよ。私だって隅々まで探したんだから……」


むくれているが、俺には当てがある。

怪訝な顔をしている百合さんに一口ようかんの包装フィルムを見せた。

そう、あれだ。おばあちゃんのあの変な言動だ!

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