第5話 ええ! JKが俺に襲いかかる?
チェーンを外したJK=朝凪百合さんの誘いにのり家に入る。きしむアルミのドアを開けると、埃と老人のにおいが充満していた。たじろいでいる俺を気にすることもなく招く百合さん。
薄暗い廊下におばあちゃんが立っていた。
「あんたはたくじの……」
「おばあちゃん違うよ。えいじさんじゃなくて、堤宗次さん」
「えいじ上がれ。美味しい菓子があるぞ」
おばあちゃんは俺を手招きする。
百合さんが俺の耳元でささやいた。
「ごめんなさい。おばあちゃん、もともととっても頭のいい人だったんだけど。一昨年ひったくりにあって怪我してから急にこうなったの」
「足、大丈夫なんだろうか。立っているけど」
「少しは歩かなくちゃね。弱る一方だから」
そりゃそうだね。少しは歩く……まて、待て!
こういう話がしたいんじゃない。俺は今ブリブリ怒っているんだ。
「えいじよく来たなぁ。あの頃は……」
おばあちゃんの神妙な声に百合さんがさとす。
「おばあちゃん、こちらの方はええと……堤宗次さんですって。えいじさんじゃなくてそうじさん」
そう、俺は「えいじ」じゃなく「そうじ」
……いや、いや。そういうことじゃなくて。
「いつから会ってなかったかのぉ、えいじ」
「「はあ~」」……俺と百合さんはため息でハモる。
が、おばあちゃんは驚いたことを言った。
「えいじ。堤の皆さんは元気か?」
「ええ!?」
「おばあちゃん! 堤さんを知っているの?」
「まさかと思うが……。俺を堤英二じいちゃんと間違えているのか」
俺と百合さんは思わず顔を見合わせる。
おばあちゃんはヨタヨタしながら奥の部屋へ。俺は引っ張られるように框を上がった。百合さんがあわてて案内。歩くたびにへこみができる廊下をほんの少し進むと、8畳位の和室に通された。年中置きっぱなしのホームコタツにおばあちゃんと向かいあって正座する。
おばあちゃんは細い指でコタツのテーブルをなぞるだけで、何もしゃべらなくなった。
「おばあちゃん、ようかんがあるから食べましょう」
とキッチンの方から大きな声が届く。
「すみません。こんなものしか、なくて……」
一口ようかんが俺の目の前に。包装フィルムを開いて口に放り込むと意外においしいのに驚いた。
「うふ、いけるでしょ。私もここに来るようになって初めて食べました。ひと
銀行に行くとトイレをせがむことやイケメンが好きなこと。若い頃、スチュワーデス=CAさんだったこと。よくモテたらしい。百合さんに男の口説き方まで教えてくれるという。ほんの1時間前まで、JKとこんな話題を交わすようになるとは想像もしていなかった。彼女が披露するおばあちゃんの世界は楽しかった。
俺と百合さんはハハハと笑いあう。……ん?
いや、いや違うだろう。こんなほのぼのとした会話をしに来たんじゃない!
「おばあちゃん、俺んち、堤を知っているの?」
「……」全く反応がない。
あきらめて聞く相手と質問の両方を変えた。
「朝凪さん。どうして初めて会った時、俺に声をかけたんだ?」
「おばあちゃんが『あの男を押し倒せ』って言うから」
「か、過激。……と、ともかく君が決めたんじゃなく、おばあちゃんの意思か」
「ふふ。だって……」
その時、突然電話が鳴り始めた。固定電話が水屋の棚で鳴っている。薄緑色のプッシュボタンタイプ。百合さんがおもむろにフックを上げる。
「はい。あっ刑事さん。今同僚の方がお見えです。ええ……ですから大丈夫。……名簿ですよねえ。はい、まだですが? 一緒に見つけます。……えっ! まさか! うそでしょ!」
俺の方をちらりちらりと見た後、うつむいて電話に手を覆ってささやき始める。
お~い何だよその雰囲気。俺は思わず立ち上がり百合さんに近づく。
「きゃあああ! 近くにこないで! いやああ、助けて!」
突然電話に向かって救援を求めだした。
「ちょ、ちょっと。どういうことだ?」
百合さんの側まで行くと受話器を俺に投げつけ、水屋にあった
「今、警察が来るわよ。私に近づかないで」
花ばさみの先が震えている。
はさみを取り上げようと近づくと百合さんはそれを頭上高く振り上げた。ちょっと待ってくれ。俺は詐欺師でも変質者でもない!
ごくフツーの高校生だ。いや、違う。変人だ……。ん?
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