第4話 この仕打ち。どうしてなんだ?
逃げるように学校から離れ大通りに出た瞬間、俺はときめいた。およそ100メートル先にJKと車椅子を発見したからだ。しかも俺のほうを向いている。……そうか、俺を待っていてくれたのか。足早に駆け寄り側まで行くとJKが謝罪した。
「あのう、昨日はごめんなさい」
「まあ、しかたないですよ。あの状況じゃあ」
「でもめいぼが見つからなくて……。新聞紙で渡したんですが、大丈夫でした?」
「……はあ?」
「次はうまくやります。名簿も見つけます」
JKは丁寧にお辞儀をして公園の方へ立ち去った。老婆の「今のは、えいじだったかの」という声が遠ざかる。なに、今の? しばらくして我に返るとJKも車椅子ももう見えなくなっていた。
*
あくる日定刻で下校すると、大通りでJKと車椅子を見つけた。が、公園に入るところだったのであきらめて帰宅。家に帰ると母が鼻歌交じりでキッチンに立っていた。夕飯の準備か相変わらず見もしないTVが点いている。ニュースでは女子アナがしゃべっていた。
「最近のオレオレ詐欺はますます巧妙化しています。劇場型と呼ばれ、台本のようなものまであるといわれております。……被害額も激増しており……」
俺がかかわった事件が報道されるかと聞いていたが無駄だった。
2階で着替えながらあれこれ考えていると、昨日の彼女の言葉がしきりに気になる。「めいぼ」「次は」……JKに起こっている事は何だろう。それに俺はどう関わっているのか、是が非でも知りたくなった。
……公園に行かなくては。
服装はこの前の反省を活かし、白Tにチノパンの至ってオーソドックスなものに。サングラスもキャップもない。もちろんマスクもしていない。……これなら安心だ。
公園に入ると母子の集団。黄色い帽子をかぶせられたチビらが、話に夢中な母親たちの周りをはしゃぎながら走っている。それを横目に俺は公園の奥にあるバラ園を目指す。
バラ園に着いても二人はいない。
「トイレにでも行ったのか」そう考えた俺は引き返した。すると左手に公園の出入り口がある。「ここから出たのか?」
勘に従って公園から出てみると、100メートルくらい先にJKと車椅子が歩いていた。急いで追いかけたがあと少しのところで信号につかまる。待ち遠しい信号機に文句を言いながら二人を目で追うと、突然JKが振り返った。俺は手を上げる。が二人は古い住宅街の方に曲がった。
俺がそこに着いた時、二人はすでにいなかった。辺りはせまい路地で住宅が密集しており二人がどこをどう進んだかわからなかった。
やむを得ず一軒一軒表札をあたる。40分ほどしてやっと「朝凪」の表札を見つけた。古い平屋でアルミのドアは腐食が進んでいる。どうしようかとドアの前で迷っていると……。
「君、ちょっといいかな」
振り向くと自転車に乗った二人の警官! おい、またかよ! 前回の経験があるので即座に住所と氏名、そして父の名を告げた。
「堤って、本部長の関係者? あっ、この近くにご自宅が……」
「息子ですが……何かあったんですか?」
警官二人は顔を見合わせた。
「ごめん。いや~申し訳ありません。ストーカーに追いかけられているという連絡があったものですから……。おい、行こうか。誠に失礼しました」
二人とも手短な敬礼すると、そそくさと自転車をこいで立ち去る。
おとといはウケ子で、今日はストーカー。
酷いじゃないか、この仕打ち!
ためらっている場合じゃない。小さなチャイムを思いきり押した。が、ブーともリンとも言わない。電池切れか壊れているのか。いい加減にしろ! 思いきりドアを引っぱる。ガシャンとチェーンが張った。あれ、鍵がかかっていない!
ドアの隙間から叫び声が飛び出す。
「いや! 来ないで! 警察呼びます!」
チェーンの上に大きな瞳が一つ見えた。
「……警察ならもう帰ったよ」
「ええ、そんな……」
「俺、ストーカーでもウケ子でもないから。俺は……」
ドアスコープのないアルミのドアに向かって自己紹介しようとしたら、隙間から質問された。
「一体どういうことなんでしょう?」
……こっちが聞きたいわ!
JKが二つの目で俺の顔を見て驚く。
「あ、れれえ。あなた刑事さん」もう意味わからん。
「このあいだの……警察関係の方ですよねえ」
「警察関係……。ええ、まあ」
「いやだ、私ったら。ごめんなさい勘違いして」チェーンを外す。
こうして不思議なJK=朝凪百合さんと俺――二人の活躍(?)が始まった。
いや間違えた。おばあちゃんも含めて三人だ。
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