第3話 登校するとクラスの雰囲気が変わっていた
翌朝、登校するとクラスの雰囲気が変わっていた。特に何がということではないのだが、やたらに視線を感じるのだ。それには冷たさや刺々しさはない。むしろ羨望が混じっている気がする。
始業間際になって神田が入室し席に着いた途端、俺に親指を立てて見せた。
次の休憩時間、神田が俺の前に来ると、それまでざわついていたクラスが一瞬で静まる。神田が俺の肩に手を乗せ、顎をそらして大きな声を出した。
「お手柄だよなあ。宗次はいつかはやると思った。なあ、皆」
隣の席の男が俺たちのそばに来る。
「びっくりだ。超カッコいいよ堤」
これを契機に次々に俺と神田を取り囲むよう男女が集まってきた。
「ウケ子って本当にあるのね」
「TVドラマみたいだった」
「犯人、捕まったんだろう。レンタカー会社で……」
口々に言いあっている。
「ど、どうして知っているんだ!」
俺は慌てた。
「なに言っているんだ。神田からLI〇Eで一斉送信が何度も来たぜ」
「げ! うそだろ」
神田をにらむと、彼は隣の女子たちに腕を広げ、胸を張り話していた。
確かに昨夜LI〇Eで、神田の「今どうしている」の返事をうっかりしてしまった。だが、内容は極ごくアバウトなものだが……?
「うちの兄なんか警察オタクで色々調べていたよ。ウケ子はどこの県から来たとか、犯人グループの目星とか」
「おう、俺の連れはレンタカー会社を特定したぞ」
神田が火に油を注ぐ。
「俺のネトゲ仲間なんか色々調べてくれた。……見てくれよこの情報量」
これをきっかけにワイワイ、きゃあきゃあ、クラス中がスマホを見せ合いながら騒ぎ出した。オレオレ詐欺について……やら、半グレやら、果てはパパ活まで。
SNSと人のうわさ話の恐ろしさを目の当たりにし、俺は頭を抱える。
次の休憩時間に神田に文句を言ったら逆ギレされた。
「お前だけいい目をさせるか! 俺だって目立ちたいんだ」
こいつこんな性格だったのか。人はピンチの時性格があらわになるというのは本当らしい。
午後になるとクラスはおろか学校中に知れ渡った。行く先々でひそひそ話をされ、すこしでも知った顔なら「ホントはどうだったんだ」と事の詳細を求められる。生活指導の先生にも呼び止められたほどだ。
校門を出てフェンスの脇を歩いていると、スクールカースト最上位のイケメン生徒たちが自転車置き場に集まっている。すると女子生徒が俺を見つけた。
「あっ、あの男子ね。あの子がオレオレ詐欺を捕まえた生徒ね」
「一人で何人もの半ぐれをやっつけたらしいぞ」
かなり事実と違うが本当の騒ぎはこれからだった。
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