第六章 第四話「なんで……?」
目が……覚めた。
周りは真っ暗闇。
しばし考えて、ここがテントの中だと思い出す。
みんなが眩しくならないように気を付けながら、枕元に置いていたヘッドライトを一瞬だけつけて時計を見る。
時計の針は午前三時を示していた。
剱さんの事が気になってテントの奥を見てみると、いびきをかいて眠っている。
剱さんはあの後、消灯時間の午後九時直前に戻ってきた。
終始無言で寝袋に入ったので、私もなんだか気まずいまま横になったのだ。
……こんなに早く目が覚めたのは、たぶん剱さんの事が気になったからだと思う。
上着をめくったことがどうしてマズかったのか分からないけど、剱さんには剱さんの事情がきっとある。楽しい雰囲気を壊してしまい、なんだか申し訳なく思う。
改めて剱さんの様子をうかがうと、寝袋から長い手足を突き出して眠っていた。
よく見ると上着が全部めくれていて、お腹どころかスポーツブラまで見えてしまってる。
この寝相の悪さは学校のキャンプのときも同じだったなと思い出した。
「お腹、冷えちゃうよ……」
起こさないように気を付けながら、上着を戻そうと手を伸ばす。
……その時、私は息をのんだ。
剱さんの山用のTシャツに、見覚えのあるイラストがプリントされてる。
間違えるはずがない。
……これは私が描いたイラスト。
弥山の頂上で撮った記念写真を参考に描いた、最新の自信作だった。
「なんで……?」
このイラストを剱さんに渡した覚えはない。
ネットでも公開してないので、偶然手に入ることなんてありえない。
私がこのイラストを送ったのは、この世でたった一人しかいなかった。
「……リリィさん……なの?」
無意識に声を漏らしてしまった。
すると、剱さんが「んあ?」と声を上げる。
聞かれてしまったかと思って口を手で覆うと、剱さんはむにゃむにゃと声を上げながら横を向いてしまった。
……どうやら眠ったままのようで、再びいびきをかき始める。
嘘。
あり得ない。
なんで剱さんがリリィさんなの?
それとも、リリィさんがデータを剱さんに送った?
なんにしても、マッサージのときに剱さんが動揺してた理由はこれに間違いない。
私は問い詰めたい気持ちに包まれながら、眠っている剱さんを起こすわけにもいかなくて、ただひたすら目の前のTシャツを見つめ続ける。
……しばらく呆然とした後、震える指で剱さんのめくれた上着を元に戻した。
そして音を立てないように自分の寝袋に戻り、目をつむる。
でも、もう眠ることはできなくなっていた。
第六章「つかの間の賑わい。そして」 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます