FREE GROW ONLINE

髙﨑 レイ

第1話 プロローグ

 木々が茂る森の中。俺はとある存在と一対一サシで凌ぎを削っている。

 アレこの表現って決闘法に違反するような…。いや関係ないか。何せ相手は人間ではないのだから。

「グガッ!!」

「うっせーよ」

 鋭く伸びた爪を利用するかのようなフックを首皮数枚を霞ませて避けると同時に喉元に狙いを付けて蹴り上げを行う。ただそれは別の腕に払われてしまう。まあそれを利用してソイツから距離を取り小石を拾う。

「サッサ倒れろこのクマ野郎」

 石を目を目掛けて投擲しその方向とは逆の方向から殴りにかかる。



 このクマ野郎の正式名称は《フォレストベア》

 Free Grow Online 略称【FGO】の最初のボスであり…なおかつ運営の悪意その1と呼ばれているMOB。


 そんな存在と俺は…【FGO】正式稼働その日に殺り合っていた。

 【FGO】の醍醐味とも言えるスキルそしてプレイヤーの分身たるアバターにステータスを僅か1も振ることなく。



 それが俺のこの世界での異端な幕開けであり後にトッププレイヤーの1人として数えられるその一歩である。


 


 時を僅か1日前に遡る。



「にしてもどんすんかね〜」

 つい先程、新学年用のアレコレや日々の食材を近所の商店街で買い足していると丁度福引きができたのでした結果。最近開発されたばかりの最新のVRゴーグルとそのVR環境に対応した新作のVRMMORPG【Free Grow Online】省略名【FGO】と銘打たれたゲームソフトが付いて来たのだ。

 ちなみにこのVRゴーグルは既に俺の固有脳波が登録されてある。なのでもう俺自身が使うか他人への贈与しか出来ないのだ。なんでも転売禁止のためらしい。すると不意に勉強机からアラームが鳴る。連絡先を確認してそのまま対応した。

『よう誠二。お前VRゴーグル当たったらしいな』

 誠二とは俺の名前である。ちなみに名字は星本である。そして電話の相手は司馬康介。俺の悪友にして親友でもある。

「何でそれを?」

 ほんの1時間前だぞ。それとも最新鋭だけあって近所の皆さま方狙っていたのか?

『ああ。由里が見てた』

「由里ちゃんが?」

 由里ちゃんは康介の妹である。康介とよく一緒に遊んでいたのでそんな近くに居るなら多少の挨拶くらいはするはずなんだが…。

『ああ。アイツもちゃっかり高級食材セット当てたぞ』

「あのどう考えてもステーキ食えよ?」

 俺どっちかと言うとソッチの方が欲しかったんだけど。上手く使えば2週間は持ちそうな量合ったし。ちなみに今の俺はほぼ1人暮らしなので食材系統の方が良かった。食費は振り込まれているけどね。

『それそれ。お陰で数日の献立無駄になったて母さん嘆いていた』

「ああ言うのは鮮度が高い方が旨いからなぁ。まあ良いんじゃね?親父さん誕生日だろ?」

 司馬家は皆健啖家である。何度か夕食を共にした事があるがどう考えても1人3人前はあった。事前に康介が腹空かせとけと言われて無かったら残すところだった。

『そうなんだけどな〜。中華の予定だったんだよ』

「なるほど」

 じゃあ分厚い牛やら豚は邪魔だな。そう言えば何でアメリカはあんなモン食い始めたんだろ?

『親父はそれでも喜んでたけどな』

「由里ちゃんには甘いからね」

 お陰で偶にどやされもするんだが。何でなんだろ。

『お兄ぃご飯だよ〜』

『了解。【FGO】は正式稼働は明日からだけど明後日一緒やろうぜ!』

「分かったわ。じゃあ明日やってみようかね」

 コイツから誘ってくるとは期待しても良いのだろう。それに全く興味がないわけでもないし。

『おう。じゃあログインする前に連絡入れるわ』

 そう言って画面がブラックアウトする。

「う〜んならポトフで良いか」

 わりと何にでも作り替えれるし。と何気に廃人プレイを推測して夕食を食べて軽くランニングをしてから眠った。


 翌朝。

 日課であるトレーニングをしてからシャワーを浴びて昨晩の残りを肉じゃがにリメイクしてから食べて【FGO】の公式サイトを覗く。

 そこには大まかな概要などが書かれており大変役に立ったが見ているだけでもかなりの時間が経ち正式稼働である正午よりも少し前だった。慌てて元々仕込んでいたラーメンを食べて取説での推奨体勢でベッドに寝転びゴーグルを装着する。

「【FGO】起動」

 こうして意識がプツリと切れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る