Monte Carlo -15-
《了解である。そのまま真っ直ぐミラノに来れそうであるか?》
「どうだか。このエキシージとエヴォーラにはGPS発信機が付いてる。できれば乗り捨てたいところだが、代わりの速い車なんてそうは見つからねぇ。板挟みの状態だな」
《……ああ、分かったである。貴様らが欲しいのは、“アレ”であるな?》
「そうそう、分かってんじゃねぇかよ」
《ええ、おそらく私もレオさんと同じことを考えています》
「俺のゾンダを」
《私のムルチェを》
二人が同時に発したその言葉は、彼らの愛車の愛称を示している。
かつてはレオ、そして今はヒューガ、この二人をミラノのストリートレース界最速にのし上げた愛車達。
レオのパガーニ・ゾンダ、そしてヒューガのランボルギーニ・ムルシエラゴだ。
レオとヒューガがJVに要求したのは、この二台の召喚。
《ゾンダとムルシエラゴの用意は既にできているである》
「マジかよ!? じゃあ道中で合流して…」
《それができぬのだ》
「できない? なんでだよ?」
《まぁ、簡単に言えば我輩のプランが狂うからだ。
貴様らがモナコから出た瞬間、モナコ政府からの支援はなくなる。つまり荒事を起こすと警察が動くというわけであるな。モナコ国内にいるうちにアゲラトスを叩きのめし、出てからは逃走に徹する。そのためには、GPS発信機が付いているその車はむしろ好都合である》
「おまっ、俺の身にもなれよ! 正気か!?」
《うむ、かなり正気である。貴様らが愛車を手にするのはイタリア国内までお預け、である》
《ふふふ……おもしろいじゃないですか》
ヘッドセットから流れてくるのは、後ろのエヴォーラを運転する女の声。
世界一空気の読めない女の声。
「…………」
《あれっ? あっ、失言でしたかね……》
《いいや、正論だ。作戦の趣旨を説明した際にアゲラトスの粉砕のことも言ったはずである。レオナルド、報酬は弾もう。乗り換え地点までその車で我慢するである》
「はいはい……ボーナス期待してるぜ」
《そうであるな、考えてはおく》
「で? じゃあゾンダの置き場所は?」
《モンテカルロから地中海沿いに進むとジェノバに入るはずである。これからジェノバのどこかに二台とも運んでおく》
「ジェノバ……か」
地中海沿岸のあの工業地帯ならば、車の隠し場所としても悪くない。
仮に車の乗り換えでゴタゴタがあろうが巻ける地形だ。
遠回りにはなるが、逃走にゾンダを使えると考えればメリットのほうが大きいか。
「分かったよ。じゃあ最初の目的地はジェノバだ」
《うむ。詳しい座標は追って連絡するである。まずはアゲラトスの連中と遊んでやるがいい》
《すみません、会話の背骨を折るようですが。レオさん、後方にアゲラトスです》
「それを言うなら腰だろうが」
サイドミラーに映る、街頭に照らされた深緑色のイギリス車。
台数まではまだ確認できない。
レオはヘッドセットに手をかけた。
「じゃあなボスさんよ。ゾンダとムルシエラゴ、ジェノバまで陸送手配頼む」
《任せるである。せいぜい死なぬようにな》
ピッ…
JVとの通信を切断する。
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