Monte Carlo -13-



―――エドガーは既に本日二箱目の煙草を開封した。


相変わらずの疲れた目付きだが、その瞳には焦りと怒りが満ち溢れている。



「どうだ、俺の指示通り動けているか?」


「はい、リーダー! エヴォーラ、エキシージ、バリケード用3台の合計5台のみを残し、全車がホテル外にて待機中です!」



革のコートを羽織りつつ、ホテルのエントランスから、冷たい潮風が吹く屋外へと。


銃を手にした六人の部下と三台のイギリス車が、駐車場の出口を封鎖している。


二車線あるが、三台の車が横に並べば摺り抜けられる隙間はない。


しかしそれにしても、不覚だった。


あまりにも、不覚だった。


ワイルドウイングがセナを狙う理由などないと思っていた。


欧州最強たるヤツらを敵に回すと考えた場合、セキュリティーシステムがあまりにも甘すぎた。


そんな物を手に入れなくとも、ヤツらはヨーロッパ最強の運び屋グループだ。


リーダーのJVが持つカリスマ性にも惚れていたところだ。


しかしセナの存在を良く思わない依頼主に、ただ一つだけ思い当たりがある。


モナコ政府。


もしもワイルドウイングとモナコ政府との間に繋がりがあるとしたならば、ワイルドウイングの狙いも同じくセナ内部のデータ。


モナコ政府が関わっているともなれば、この件にはモンテカルロ市警も動かせまい。


それに加えて、初仕事のその日の夜にこんなことをやらかすとは、予想のよの字も浮かばなかった。


仮に何かしらの動きがあるとしても、一定期間の様子見を経てからという既成概念があったからだ。


JVは、エドガーのそれをも見越していたのだろう。


最悪だ。


モナコ政府はまだいい。


あのワイルドウイングが……鬼才JVが、敵に回ったとしたならば。



 


吐く息が白い。


煙草の煙とその息が混じって煙幕を作り、それが晴れた時にようやく部下の配置が見えてくる。


最悪?


まだそんなことを口に出すのは早い。


総員急ぎで準備したのか、皆パジャマ姿にサブマシンガンという異様な格好だ。


ホテルの一階部分に、ぽっかりと口を開いた車両用出入口。


その中には捕獲目標であるレオ、ヒューガ、そしてアゲラトスのコアコンピューター……SENAが潜伏している。


突入して荒事を起こすつもりはない。


彼らを捕獲して、ワイルドウイングに突き出す。


そしてワイルドウイングを失脚させ、我らがアゲラトスを欧州最強のトランスポーターグループにのし上げる。





「全員銃を構えておけ。エヴォーラとエキシージで突っ込んできた場合は車の後ろに隠れろ。どうせ自滅するだろうよ」





ひとまずここまで。


それ以降のことはヤツらを捕獲してから考える。


まずはヤツらを炙り出す。


地下駐車場に逃げ場がないとすれば、ヤツらは必ずここを上がってくる。


ここで賢い判断は両手を上げながら出てくることだが、ヤツらはそうあっさりと終わらせるような連中ではない。


どう来る、ワイルドウイング。






キュルルルルル……フォーン。

キュルルルルル……フォーン。

キュルルルルル……フォーン。





聞こえる。


セルが回る音と、エンジンが吹き上がる音。


……待て。


今、三台分の音が聞こえた気がする―――。



 

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