Monte Carlo -11-



《ん、どうしたレオナルド。セナを見付けたのか?》


「……ああ。おそらくな」



西から沈みかけの月明かりが差すこの部屋では、もはや暗視ゴーグルも必要ない。


暗視ゴーグルを外し、スマートフォンでセナを撮影。


JVへ送信。


レオはただただ、その容姿が不気味だと思った。




見た目ならば二十歳にも満たぬ小柄な美少女。


掛け布団の下に隠れていたが、眼は見開かれている。


流麗な黒髪は足の付け根に届いてしまうほど長い。


身につけているのはコバルトブルーのワンピース。


レオへの反応がない事から察するに、感覚器官は働いていないのだろう。


レオが左手でセナの頭部に触れると、指輪が限界まで強く振動する。



《オーケー、メールを確認した。……しかし、なんとも斬新なデザインのコンピューターだな。セナに間違いないのだな?》


「ああ。指輪も震えてるし、なにより……」



青く発光する、両瞳。


その光は差し込む月明かりよりも強い。


この少女が単なる人間ではないことは、火を見るよりも明らかだった。



 


《なるほど……ヒトの脳をCPUやメモリ、ストレージとして、そして身体を動力として使うコンピューター、といったところであるか。まさかこんな場所で見えることになるとは》


「知ってるのか?」


《理論を聞いたことがあるだけであるがな。聞きかじった知識で良ければ入れ知恵してやろう》


「ほう。ならこれからコイツをどうすればいい?」


《そやつに息はあるな?》



狂ったように振動する指輪を外し、噛咬反射がないことを確認してからセナの口元に左手を近づけるレオ。


鼻だ。


鼻で小さく呼吸をしている。



「ああ、息はあるみてぇだ」


《ならば麻酔薬を吸わせて気絶させろ。セキュリティープログラムの類が発動されるよりなら、脳の活動を停止させたほうが早い》


「俺への給料の計算を止めるってことか?」


《19ユーロぽっちなら、吾輩が貴様にケンタッキーでも奢ってやろう》


「言ったな。バケツサイズで頼むぜ」


《貴様が無事にミラノに帰って来れたらの話であるがな》



 


ウェストバッグからハンカチを取り出す。


麻酔薬を染み込ませた護身用のハンカチだったはずだが、まさかこんな使い道になるとは。


ハンカチでセナの鼻と口を覆うと、光を放つ瞳がゆっくりと閉じられた。








  ジリリリリリリリリリリッ!!!!!!!!!!!!






ホテルに響く防災ベルの音。


セナが意識を失うのと同時に鳴るように細工していたのだろうか。


またはあのクソ女がドジったか。


どちらにせよ、そのベルを作戦開始のファンファーレとするには、あまりにもメロディーが雑すぎる。







《さぁ、レオナルド。地中海のサファイアを掠め取るである》


「任せとけ。必ずミラノに持ち帰るさ―――」



 

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