その3
☆
よう、みんな。
子育てはどうだ?
うまくいってるか?
俺は……わからん。
この前、生まれたと思った娘がもう中学生だ。
だけど、思春期の女の子ってのはどうも扱いが難しい。
話しかけても返事はつれないし、臭いとか言ってくるし、かといって都合の良い時(なんか欲しいものがあったりする時)だけは甘えて来たりするし。
娘は俺の嫁に似て、瞳がクリクリと大きくて親バカかもしれんが、結構可愛い部類に入ると思う。学校の男子からも人気があるらしいと風の噂で聞いた。
誇らしいような気もするが不安でもある。
ミニスカートなんか履いて欲しくない。街を歩いていても若者からおっさんまで娘の足を見ているような気がして、気が気じゃない。
それに、娘が時折つれてくる仲の良い男子とやらは、なんだかチャラチャラした勉強の出来なさそうな軽薄な奴だから、それも悩みの種だ。
「母さんがいない時には男子を連れて来ちゃならんぞ」と言うのだが、
「そんな関係じゃないし。サイテー」
と親の心配をよそにプンスカ怒るので困っている。父親としては不安で仕方がない。
「……そんなこと言っても、お主ができることは何もないじゃろ。親ってのは子を信じて見守るしかできんのよ」
愚痴を零すと、目の前の猫耳少女がミルクをちろりちろりと舐めながら、わかったような口を聞いた。
「……タマさんに俺の気持ちがわかるかよ。自由気ままな猫のくせに」
「むっ。なんじゃ八つ当たりか。困った奴よのう。良いか。儂だって子はおる。前に言ったろ。人間との間に子を作ったことがあると。じゃが、親ができることなんぞ、限られておる。なるようにしかならん」
「そういうもんかねぇ」
「そうじゃとも。それにお主の娘は良い子じゃ。400年生きて様々な人間を見てきた儂が言うのじゃから、間違いない。お主の心配はわかるが、あと数年経てば思春期も終わる。そうすれば、また仲良くできるだろうさ」
「そうなれば良いけど……。それよりさ。タマさんは今、どこにいんの?」
「ん? なんじゃ。儂との生活が懐かしくなったか? それとも儂の猫耳少女姿にまた逢いたくなっておるのか? いやらしい男じゃの。娘と同い年くらいの儂の魅惑のボディを求めるなんて。破廉恥オヤジじゃの」
そう言って白い猫の姿だったタマさんはジャンプ、くるりと一回転。
すると、懐かしい猫耳少女の姿に早変わりした。
「ほれ、リクエストにお答えして変化してやったぞ。可愛いじゃろ? にゃんにゃん♪」
片手を上げて首を傾げて、ポーズをとる。
「そんなこと言ってねえだろ。単純に久しぶりだから、元気にしてんのかなって思っただけだよ」
「にゃはは。そうか。儂は今は野良生活じゃ。時に人の姿に化けて、時に猫の姿で、面白おかしくやっておるわ」
「そうか。全然、昔と変わってねえもんな。姿も中身も」
「褒め言葉と捉えておこう。なんてったって、儂、招き猫様じゃからな」
「招き猫って、寿命はどのくらいなんだ?」
「さぁ、わからんのぉ。儂、自分以外の招き猫って会ったことないからの。じゃが、まだ体のどこも衰えを感じておらんからの。あと二、三百年は生きるんじゃないかの?」
「すげーな」
苦笑する。
「タマさんに比べたら俺たち人間の一生は短いな」
「にゃはは。短すぎて気がついたらオッ死んでる奴もおるからな。短命な生き物は困ったものよ。……ってか、お主もずいぶん白髪が増えたのぉ」
「もう中年だからな。腹もでちまったし。そりゃ娘にキモいって言われるわ」
「にゃはは。今からだって遅くはない。ダイエットせい」
「……そんな根性ないよ。ま、ともかく、久しぶりに会えて良かったよ」
「そうじゃの。次はいつ会えるか、わからんからな」
「連絡手段もねえもんな」
「猫は気ままな暮らしが好きじゃからな。何人にも縛られたくないからのぉ。ま、運が良ければまた会えるじゃろ」
「うん。じゃあまた、いつか。元気でな。タマさん」
「お主こそな」
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