第33話・魔王様、勇者の力を見抜く。

「ここです。

――せやぁぁぁぁぁっ!」



勇者ティアが獣人の子供達をターゲットに襲ってくるビッグ・イーグルに対して、聖魔法をまとった剣を振るった。



ギャァァァァァッ・・・



ティアの振った剣から光の斬撃が放たれ、ビッグ・イーグルに命中。



その瞬間、ビッグ・イーグルは消滅するように跡形もなく消え去った。



「すごい!」



子供達が驚くように、聖魔法は浄化の効果をもつだけに効果は絶大。



そのおかげで、何の被害もなく全員が無事助かった。



「・・・よかった、うまくいった」



ティアが安心するように構えをとくと、剣にまとっていた光は消えていた。



効果が発動したからだ。



見ての通り、この魔法が狩猟に向かない理由は、その効果にある。



ビッグ・イーグルが跡形もなく消え去ったように、魔族以外に魔物に対しても効果が発動する。



そのため、この魔法で狩猟を行なうと痕跡を残すことなく消滅させてしまう。



魔物を持ち帰ることができないのはもちろん、必要な素材を回収することも不可能。



今回、ビッグ・イーグルは討伐対象外だったので使用したが本来、危機的状況や魔族との戦闘以外で使用することはない。



ティアが魔法発動に安心していたのも使う機会が少ないからだ。



「――あれが勇者達だけが使えるという聖魔法の力なのですね」



魔族の1人として勇者の魔法を初めて見たベルがそう呟いた。



その呟きは近くにいるキースにしか聞こえない。



「そうだ。

・・・思った通り効果が弱まっているな」



キースはティアの使った魔法を見て、そう分析する。



「そうなのですか?」



「集まる力が少な過ぎる」



キースの見立てではビッグ・イーグルに対してはうまく発動したようだが、それ以上の魔物になると効果が出ないと推測。



例えば、ティアを襲ったキラー・タイガーにこの魔法を使ったとしても無意味だっただろう。



浄化という効果の性質上、対象の魔力量を上回る力を発揮しなければ打ち消され、効果が出ない。



今のままでは魔王を倒すどころか、魔族や高ランクの魔物すらも倒せないだろう。



「・・・やはり獣人を救う必要があるわけですね」



「そういうことだ」



聖魔法は魔族に対抗できる魔法だけに、他の魔法と作りが違う。



力の源が魔力ではないのだ。



では何が力の源になっているかというと、人間達の“絆”にある。



勇者は人間を救うために生まれた存在として、多くの人間を救うことで力を得るといわれている。



その象徴が聖魔法だ。



先代の勇者が強く、又おとぎ話になるほど人間に愛されていたのはそれが理由。



しかし、今の人間達はその理(ことわり)を知らないように、行動や在り方、勇者の存在意義があべこべになっている。

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魔王様、勇者を育てる。 @00sora00

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