第32話・魔王様、勇者の魔法を見る。
――勇者であるティアとしばらく狩猟を共にする約束をしたその帰り道。
「お姉さんは勇者なんですか!?
“聖魔法(せいまほう)”が使えるの?」
キース達の話を聞いていた獣人の子供が、興味を持ったようにティアにそう聞いていた。
ティアと獣人の子供達は訓練を一緒に受けたこともあって、すっかり仲良くなっている。
「うん、初級の魔法なら使えるよ」
あまり自信はなさそうだけど、一応使えるとアピールしていた。
【聖魔法】というのは勇者だけが使える魔法。
魔族に対抗できる魔法として勇者に授けられる。
その名の通り、聖なる魔法といって、魔(ま)を持つものを浄化し清める魔法だ。
「すごいすごい!
見てみたい!」
すると、獣人の子供がねだるようにお願いしていた。
それだけ興味を持つのには理由がある。
実は、勇者という存在は人間の間で、おとぎ話になっている。
何百年も前の話で、先代の勇者が先代の魔王を倒し、世界を平和にしたという物語。
その話は子守唄代わりに子供達に聞かせることが多く、勇者に憧れる子供が多い。
獣人の子供達も同じで、勇者に詳しいのはそれが理由。
「――じゃあ、少しだけだよ」
ティアはそんな子供達の期待に応えるために、聖魔法を見せるようだ。
腰に携えていた白い剣を鞘から抜き、構える。
――『ホーリー・レイ』
そう魔法を唱えるとティアの持つ剣に光の粒子が集まっていく。
そして、その光の粒子は剣を包み込むような光になり、剣が光をまとった。
「綺麗!」
子供達が言うように、その光はどこか神秘的で美しく見える。
ギャァァァァァッ
そんな時、突然大きな魔物の鳴き声が聞こえてきた。
上を見上げると空から一羽の大きなワシ型の魔物が雄たけびを上げて、キース達の元に急降下してきている。
「あれは、ビッグ・イーグルか」
それは【ビッグ・イーグル】と呼ばれる魔物で、別名『森の掃除屋』といわれている。
冒険者達がよく狩りを行なう場所に現れては、冒険者が狩り残した獲物を空から狙ってくる魔物。
『森の掃除屋』と呼ばれるのは、冒険者が必要な素材だけを持ち帰った後、余った素材を処理してくれるからだ。
今こうして冒険者自身を襲ってくるというのは珍しい光景。
「きゃぁぁぁぁぁ」
ビッグ・イーグルの降下地点から推測するに、狙いは獣人の子供達。
パッと見、子供ばかりの集団だから、獲物として認識されたのかもしれない。
「私に任せてください!」
ティアもビッグ・イーグルの狙いがわかったようで、子供達を守るように前に出た。
「聖魔法は魔物狩りに向いてないのですが、仕方ないですね・・・」
ティアが構える剣は今、聖魔法をまとっているため攻撃すれば魔法の効果が発動する。
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