第29話・魔王様、勇者に教える。

「――行きます」



勇者こと――ティアは一対一でグリーン・ボアに向き合っていて、獣人の子供達が見せたような連携は取れない。



この状況を望んだのはティア本人であり、これまでの狩猟もこうして1人で行なっていたのだという。



しかし、剣を構えるティアの姿はどこかぎこちない。



「大丈夫なのか?」



その姿はキースが心配するように、何かに怯えている様子にも見えた。



ブヒィィィィィッ



ティアが向けた敵意にグリーン・ボアが気づき、先制攻撃として突進をしてくる。



すると、キースの心配通り、ティアの動きがおかしくなる。



「・・・か、体が・・・」



突進が迫ってくる中で、ティアは何故か動かないでいた。



正確には足が震えて動けないでいたのだ。



「な、何で・・・」



ティア自身にもその理由がわかっておらず、焦りが見える。



「――何をしている」



すると、動けないでいるティアの様子を見て、その前にキースが立ちはだかった。



ドンッという鈍い音と共にグリーン・ボアの突進が止まる。



キースが片手で突進を止めたのだ。



普通の人では不可能なことだが、あのままではティアが危なかったから仕方なく加勢した。



「・・・ご、ごめんなさい」



その瞬間、ティアは力なく地面に座り込んだ。



その姿はキラー・タイガーに襲われている時の姿を連想させる。



「そうか・・・」



キースはその姿を見て、あることに気づいた。



勇者と称えられていても、中身は人であり、少女であるということ。



ティアはキラー・タイガーとの戦いで死の瀬戸際を体験している。



その恐怖は簡単に消えるものではなく、頭では整理できたつもりでも、体が拒絶する。



今のティアのように魔物が迫ってきたりすると、体が動かなくなったりするのだろう。



ティア自身、自覚はないかもしれないが、1人で狩猟を行なっていた人が、突然同行を志願している時点で予兆があったのだ。



人間ではないキース達、魔族にはわからない感覚であり、すぐに気づけなかった。



しかし、このままではまずい状況であり、勇者として戦えなくなってしまう可能性がある。



勇者を育てるために人間界まできているキースは困る。



「見ていろ」



そこで、キースは空いている片手に真っ黒い剣を生成する。



そして、突進を受け止めていた片手を離すと、そのまま流れるように回避。



避けた瞬間に握っていた剣を振り回して、グリーン・ボアの肉体を切り裂いていく。



ブヒィッ・・・



それはすごい早業であり、グリーン・ボアはすぐに倒れるように絶命していた。



「すごい・・・」



「勇者ならあれぐらいのことはできるようになる」



キースはティアに魔物は怖いものではないと思わせるために、誰でも真似ができる技で討伐したのだ。

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